「昔から目新しさに飛びつくことがなく、気にいったモノを大事に長く使いたい性分でした。なかでもワークブーツは大好きなファッションアイテムでメンテナンスしながら履き続けています。回り道をして自分が必要だった店を自分で持った感じですね」
山本さんは北海道の出身。卒業後は実家の塗装店でお父さまの元働いていました。自分の腕で汚れた外壁を美しく生まれ変わらせる達成感、そして目の前でお客さまの喜ぶ顔を見られることにやりがいは感じながらも、いつしか田舎を出て東京で違う職業に挑戦してみたいという気持ちが芽生えていました。
「上京して塗装業で働きながら何が自分に向いているかと考えました。職人気質である自覚と手先の器用さには自信はあり、『直す』ことに価値を感じていたので、こだわりがある靴の修理をしようという答えになりました」
将来の独立を念頭に目黒にある靴修理の老舗店に修行に入りました。駅直結というその場所柄、急ぎの対応も多い一方、全国から難しい依頼も舞い込む、靴修理の最後の駆け込み寺のような存在の店で7年間数え切れない靴と向き合い、技術を磨いてきました。
「もう独り立ちできるなと物件を探し、たまたま縁があったのがここ経堂でした。親しみやすいまちですね。ご近所の紹介でお客さんに来てもらえるのが嬉しいです。雑談しながらリクエストをゆっくり伺って、ひとつひとつこの手に託してもらえる。すべてを把握できて、すべてが自分の責任だからこその独立したやりがいや重みをひしひし感じています」
他店で断られた骨の折れる修理もできることは必ず引き受ける、さらに気づいた傷みは依頼がなくても手を掛けてお返しするのが山本さんの職人としての信条。もちろんお客さんのため、そしてせっかくの靴の寿命を延ばすため。
「日々、緊張感、そして集中力と根気の作業はもはや自分との戦いですね(笑)。でも、代金をいただいているから当たり前のことをしているだけなのに『ほんとに直るんだ』『ここまでキレイにしてくれたんだ』って言ってもらえて。ああ、いい仕事したな、なんて嬉しくなっちゃいます」
ときにカスタマイズオーダーも。元のカタチでありながら靴裏をイタリアの有名メーカー品に替えるなど、より履きやすい靴に生まれ変わらせるのが楽しい作業だそう。
「この仕事の奥深さをまずます感じ、面白いですね。でも、大それた意気込みはなく、細く長く歳を重ねてもここで靴を直してご飯が食べて行けたら(笑)。鞄も角スレや色直しなどを中心に対応していますし、お困りごとがあればとりあえず相談してください」