ぐるりとキッチンを囲むカウンター席とテーブル席がひとつ。決して狭くはない店内でありながら、大将を真ん中にどこか一体感が感じられる不思議な空間です。
「この設計、僕のこだわりのひとつだったのですが、指先に集まるお客さんの視線を感じ、想像以上に背筋が伸びています。例えるなら舞台に立つ演者のような、かな(笑)。お客さんの反応をダイレクトに感じられるって最高です」
明るく元気な大将の若松さんは異色の経歴の持ち主。5歳から大学まではサッカー一筋の体育会系男子。大学卒業後は国内外のITビジネスマンとして数社を渡り歩いてきました。時代の先端に身を置きながら日々業務に取り組むも、30代前半、ふと立ち止まったご自身がいたそうです。
「自分でイチからつくり上げた空間、雰囲気、商品を届けたい、という気持ちがずっと心の底にはあったんだと思います。いつしか小さな経営者というか、一国一城の主となって自分の力を試したいと思うように。実は実家が銀座で43年続いている焼き鳥屋なんです。継ぐことは一切考えていなかったけれど、もしかしたら2代目になっていたかもしれない。厳しい世界であることは承知の上、縁ある焼き鳥で自分らしく勝負したいと思いました」
一念発起、ゼロから飲食業に飛び込みました。四谷、赤坂、神楽坂の焼き鳥屋を亘り、謙虚に必死に修行の5年間。赤坂時代、大将から焼きの技術に加え、飲食のイロハを多く学べたことで焼き鳥人生が一気に好転。口に入れたときに水分たっぷりジューシー感ある肉質、いい焦げを美味しさの肝とする若松さんの焼きのスタイルをもって開業しました。
「美味しさを追求するのは大前提、その上で焼き鳥職人の道をたたき上げた先輩方とは違う表現をしようと思っています。腕あるシェフと組んで、料理でも勝負できるメニューを用意しています。しっかり手の込んだ独創的な創作メニューは楽しんでいただける自信があります。料理も焼き鳥も、の店です」
足を運んでくれたお客さんにまずは「来てよかった」と満足いただけること。そしてまた来たくなって、予約を入れてくれた時から店に向かう道すがらもワクワク足取りが軽くなる店。究極はそんな店でありたいそう。料理も接客サービスも全体を包む空気感は心地よく、ダンスを舞うが如くいい流れのなかで毎日お客さんを出迎え、お見送りしたい。その思いを屋号に込めています。
「都会から目指してからくるまちではないぶん、地元のお客さんとしっかり向き合い、丁寧な料理づくりも接客もできることを実感しています。『なんか面白い店』『なんかイイ店』って1日も早く認めてもらえるよう精進していきます。これからですね」