少しわかりにくい住宅地に立地しながら、お二人を小さい頃から知っている年配のお客さんや開店後に常連さんとなった新しいお客さんが入れ替わり立ち替わり店を訪れています。妹の幸さんがつくったお菓子を、姉の緑さんがお客さんへ。二人三脚で店を切り盛りしています。いつも楽しそうに会話が交わされるその空間は、とびきりスタイリッシュな店構えでありながら、昔ながらの商店のような温かさにあふれています。
子どものころからお菓子づくりが大好きだった幸さん。「幸のお菓子美味しいね」と友達に喜ばれることが嬉しくてたまらなかったそう。大人になって別の職に就いていたものの、思いを諦めきれず、ル・コルドン・ブルー・ジャパンに入学、本格的にお菓子づくりを学びました。青果店の片隅でお菓子の販売を始めたところ、お菓子づくりを教えてほしいとの声が集まり、気づけば15年もの間お菓子教室を続けてきました。
「教えさせていただくことは楽しくていい経験でした。でも、製造に専念して自分のつくったものをいろんな人に食べてもらいたい、という自分のお菓子づくりの原点に帰りたい気持ちが次第に大きくなっていました」
奇しくも青果店の移転が余儀なくなり店じまいが検討されるなか、幸さんがつくるお菓子の大ファンのひとりであった姉の緑さんに開業への背中を押されます。バッグやチョコレートの販売で積んできた緑さんの接客の経験を生かして姉妹で店を営むことを決意しました。
「小さな頃から店の従業員さんやお客さんに囲まれて賑やかな環境で育ってきました。遠回りはしたけれどカタチを変えて二人でお店を継ぐ運命にあったのかなって感じています。亡くなった父もきっと頷いていると思います」
「丁寧、こじんまり」が二人のモットー。提供するのは幸さんひとりで手作りが出来る分。フルーツを始め、選りすぐりの安全安心な材料を用いた焼き菓子にフレッシュケーキに旬のフルーツジャムが少しずつ品よく陳列されています。店内のベンチや屋外のパラソルの下でイートインもできます。
厨房の様子がガラス越しで臨める設計もこだわり。誰がどんな様子でつくっているかをお伝えすることで安心と親しみを持っていただけたら、との思いから。店の外から手を振ってくれる通りすがりのお客さんも少なくないそうです。
「お客さんに喜んでいただけますように、との思いを込めて二人が自信を持って美味しいと思うものを提供させていただいています。登記上の社名は青果店時代のままにしているんです。14年後の100周年を目指して二人で頑張ってまいります」