「毎日同じ靴ばかり履き続けず、日頃からお手入れをし、そして必要あるときは早めに修理を施せば、革靴はもちろんのこと、スニーカーも寿命がぐっと延びます。新品の靴も気持ちがいいけれど、せっかく出会えた履き慣れた靴や思い出の靴を大事にしてほしいなって思います」
山梨さんが靴修理の世界に入ったのは24年前の上京時。建築系か製造系か、身体で覚えられる何か技術を身に付けたいと考えていたとき、目に止まったのがデパートにある靴修理店の募集。ふたつと同じ靴も修理もない一期一会の作業は楽しくも、時間に追われるスピード対応ではない環境に身を置きたくなったそう。
「性分的にお客さんをその場でお待たせしてではなく、じっくり落ち着いて靴に向き合う時間がほしくなりました。オーダー以外でも気づいたところはお伝えして必要あれば直したいなって。僕の思いを知ってその店のオーナーの縁でここに転職、数年後に引き継ぐことに。数人のスタッフで回していたり、遠方からの修理を郵送で受けていたりした時代もありましたが、今はすべて自分ひとり。目の前のお客さんと会話をして靴を預けていただき、自分の手の中ですべてが完結していく。いつからか自分が目指していた『まちのいつもの修理屋さん』になれているかなと思っています」
よそでは断られたという骨の折れる修理もプロの看板を出している以上、絶対不可能ではない限りは引き受ける。いただくお値段以上の手間ひまが掛かることも決して少なくはないけれど、お客さんの期待に応えることでこれまで信頼をいただけてきたはずと振り返ります。
「就職1年目の1足目の靴を大事に20年間、直し直し履かれている方や自分の愛用の靴を息子さんに譲りたいと修理を依頼される方、お母さまの形見の靴を修理して履きたいという方。僕はあまり自分からその背景を伺うことはしないのですが、そういうお話を聞く度にいい仕事しなきゃと身が引き締まります。手渡したときの嬉しそうな、ほっとされたような表情を見てよかったとこちらもほっと。『またお願いするね』の言葉がご褒美かな。モノを大事にされる方とばかり出会うからなのか、ほんとにこのまちは優しいお客さまばかりですね」
ちなみにご自身のプライベートでの靴磨きは玄関ではなく、リビングで新聞紙を敷いてゆっくり時間をかけて。愛用の革のブーツはもう10年選手。経年変化で味わいに深みを増し、ますます手放せなくなっているそう。
「靴って思っている以上に長持ちできるモノです。特に高価ではない靴の修理なんて、と思う方もいるかもしれませんが、きっとこれは直らないかな、もう履けないかな、と迷ったら諦める前に是非見せてくださいね」