文筆家になることを夢見て早稲田大学文学部に進学した樫原さんでしたが、美術史の授業での造形活動をきっかけに、日本の伝統ある木工芸術の魅力に惹き込まれていきました。

「鉄でもコンクリートでもなく木材がはまりました。言うことをきかない自然物である木材の美しさを見出して、その美しさを自身のスキルで作品にして活かせることが面白くて。30年経ったいまも思いは同じです」
一度は一般企業に就職したものの木工の道を諦めきれず、技術専門校に進学。その技術を一から学ぶことに。木工を職にすることを決め、ここ深沢で工房を持ちました。

「お客さんと顔を合わせてオーダーメイド品を作りたかったので、どうしてもまちなかで開業したかった。しばらくは家具製作もしていましたが、近年は小物に特化しています。面積が小さい分、美しさを全面で表現できるのがやりがいですね」

限られた天然資源である希少な銘木たち。樫原さんが惚れ込む最高級の御蔵島の桑、黒柿、屋久杉などを筆頭に樹齢は数百年、千年を超える木材も。仕入れた原木を時間かけて乾燥させる工程からスタート。経年・環境・気候と自然界の要因で形成されたその色合い、木目や杢による「木の表情」を見つけ削り出し、塗装へ。根気と集中力のいる細やかな作業を重ねて仕上げていきます。「深沢木箸」も「銘木ペン」も、その繊細な美しさと手触りに感嘆の声が漏れます。

「素材を前にどうしよう、こうしようと考えるのが楽しい時間。自分で思った通りに木のポテンシャルを引き出してやれた時の達成感があるからやめられない」
銘木好きな常連さんはもちろん、入学、入社、結婚など人生の節目での自分への買い物や贈り物にと、新しいお客さんがふらり訪ねて来ます。

「例えば箸なら好みの色や明るさ、重さ、長さをしっかり伺います。贈り物の場合、好みはもちろん、どんな人か、どこの生まれかなども聞かせていただき、縁のある素材をご提案します。購入される方も贈られる方もものの価値のわかる方々と思うので、ストーリーひっくるめてお渡しできたらと思っています」
近年の高級文具ブームで若い世代にも注目をされている「銘木ペン」を購入する人が増えているそう。「銘木ペン」購入をきっかけに木と木工に興味を持ち、技術を教わりたいと昨年から工房に足を運ぶ近所の高校生も。
「いいものを大事に長く使うことが見直されてきていると感じています。文具をきっかけに若い世代に木工に興味を持ってもらえるのは嬉しいです」

依頼があれば、オーダーでオリジナルのカトラリーを製作したり、壊れた家具の修理対応をしたりすることも。
「深沢の『まちの木工屋』としてありたいと思っています。いつもとは違う作業は面白いものです。こんなもの作ってほしい、こんなもの直してほしいと気軽に頼っていただけたらと思っています」



