「手間ひま惜しまず細部までこだわりぬくことが僕の料理づくりの信条。ジェラートも一口目の過剰なインパクトはいらない、口当たりがよくてふんわり香りがして『言われてみれば』と後から素材を感じてもらえるような計算をしています。互いの素材が縁の下の力持ちになって新しい味を生みだしてくれるんです」
屋号の「9」のルーツ、九州出身のオーナーシェフの山崎さんがフレンチの料理人に憧れを覚えたのは中学生のとき。フランス料理が放つ美しさ、繊細さが自身の価値観に一致、迷うことなく調理師免許を取得できる高校に進学しました。卒業後は芸術的センスを別の角度から磨きたいと飲食店のアルバイトで料理を続けながらファッションデザインを学ぶなか、一時期はアパレル業界への転身を考えたそう。
「少し回り道をしましたが自分は料理で身を立てたいんだと改めて気づきました。飲食業のすべてをきちんと経験しておこうと大手の飲食企業に就職し、寝る間を惜しんで8年間働き詰め、最終的には若干27才で有名ビストロ店で料理長まで任せてもらいました」
華やかな世界で食通のお客さんを相手にした料理づくり、やりがいも感じながら、自身の作品でもっと幅広い人を喜ばせたい、多くの人に気軽に食べてもらいたい、と考えぬいた先に表現する作品としてジェラートを思いつきました。咀嚼もいらず、安心安全な食材を用いれば、まさに赤ちゃんから高齢者まで楽しんでもらえるにちがいない、だから暮らしのまちの路面店での出店にもこだわりました。
定番の人気商品に旬の食材を取り入れた季節商品と、ほぼ月替わりのラインナップで常時9種類のジェラートが並んでいます。「潮トマト&フランボワーズ」「マンゴー&タイム」など店内表示は至ってシンプル、生フルーツを使用するなど素材ひとつひとつにこだわりながらも多くは語らずです。
「どんな味がするんだろう、と想像して楽しんで味わってもらえたらと思います。これ美味しいな、という驚きから食材を知って興味を持ってもらえたら。子どもたちの食育にもつながると思っています」
食べ放題イベント、宝石のような創作ジェラートのお重の販売などを仕掛けながらも、山崎さんが一番大事にしたいのは、毎日のようにコーヒーを飲みながらここで時間を過ごすまちのおばあちゃんや、お母さんに連れられて真剣な面持ちでメニューを選ぶ子どもたちとの日常です。小さな感動を届けられたら。
「自分のこだわりで店もクールなデザインにしましたが、皆さん最初は入りにくかったようです(笑)。今では顔なじみの方もたくさん。地元で認めてもらえる、かっこいいけれど身近なジェラート屋さんでありたいと思っています」