「昔のお店のように1階で商いをして2階で暮らす、そんな日常にずっと憧れていたんです。母も歳を重ねましたし、商いのペースを少し緩やかにして、ふたりでつくれる分だけをお客さんにお届けしていくことにしました。ずっと続けてきたお教室も家にお招きしていっしょにケーキづくり楽しむような雰囲気の空間にしていけたらと思っています」
お母さまののり子さんはフランスでお菓子づくりを学び、菓子職人へ。シフォンケーキが日本であまり知られていなかった1990年代、華やかなデコレーションのケーキが人気を博すなか、シフォンケーキの持つシンプルで正直な美味しさに強く心惹かれ、シフォンケーキづくりを独学で極めました。店を開業する傍ら、シフォンケーキのレシピ本を執筆、お教室も開催、永年に亘り精力的にシフォンケーキの魅力を伝えてきました。
そんなお母さまの姿を見て育った照美さん、一般の大学に進学していたものの、店の手伝いをしているうちに自然と菓子職人になることを自ら選んでいたそうです。
「二人とも実はつくることより食べることが好きな大の食いしんぼう (笑)。舌の感覚の鋭さは母にはまだまだ追いつきませんが、自分たちが心から美味しいと思えるものだけを提供しています」
ベーキングパウダーや膨張剤などの添加物を使わない分、手間と時間を惜しまずかけることでごく当たりまえの材料からふんわり、しっとりのシフォンケーキを生み出しています。日々、材料のちょっとした違いや天気で変わる生地の具合を調整しながらの気の抜けない作業を繰り返しています。
「ご自宅でつくられる場合、多少仕上がりが上手くいかなくても、正しい材料を使ってさえいれば味は必ず美味しくなります。お教室では皆さんにそう話しています」
可愛らしい店内には開業来人気のフランボワーズシフォンケーキを筆頭に、生クリームあり、なし両方のシフォンケーキが常時10種類以上並んでいます。お教室を開催することもあるイートインスペースに工房も併設、音楽好きの照美さんが選曲した音楽がレコードプレーヤーから流され、穏やかな若林のまちにあってさらに時間の経つのを忘れさせてくれるような優しい空間が広がります。
「少しずつ顔見知りのお客さまが出来ました。年配のお客さまが『入院中の奥さんにここのシフォンケーキを持っていくとフワフワしていて美味しいっていつも喜んでくれるんだよ』って。嬉しかったですね。若林に来てから接客も担当するようになって、改めてお客さまに足を運んでいただけるありがたみを日々実感しています。若林の皆さんとの出会いがとても楽しみです」