店主の長澤美英さんは世田谷青果市場の仲卸勤務歴10年。一般の会社員生活から知人の紹介でたまたまこの業界に飛び込みました。
「特に野菜や果物に興味があったわけではないんですが、日々野菜、果物に触れているとどんどん愛着が湧いて興味も湧いて。小さな頃苦手な香味野菜がなんで大人になると美味しく感じるんだろう、とか。不思議ですよね。食べることもお酒を飲むこともお料理をつくることも大好きでしたから、せっかくならその道のプロとしていろんなことを知りたいと野菜ソムリエの資格を取得したことが今日役立っています」
日々卸売りと小売りをつなぐ仲卸としての商いの大切さを感じつつも、当然自身の思いだけでは品物を選べず、どこか右から左に動かす作業に感じてしまうときもあり、いつしか自分が選び抜いた品物を自分の責任で直接お客さんに届けて喜ばれる姿を見たい、という気持ちが芽生えていったそうです。
今夏、同じ気持ちを持ちながら働いていた仲間を誘い、八百屋として思い切って独立を果たしました。
「いい魚屋さんやお肉屋さんの近くでお店を出して地域の食を豊かにする商店街の一角となって、昔ながらの八百屋らしい役割を果たしたいと、まっさきに思い立ったのが『魚真』さんがあるこの商店街だったんです。運良く隣でお店を持てるとはまさかまさか、夢のようです。先日もサンマを売る際に『隣で大根とスダチ買ったら』なんて宣伝までしてくれたようで有り難くて。系列店に間違われることも多くて(笑)、心底恐縮しています」
仕入のため、相方と店に朝5時前に集合。「新宿淀橋」「北区豊島」「世田谷」の市場を開店の陳列に間に合うよう大急ぎで回ります。自身の目利きと、仲卸として長年培ってきた信用、その繋がりがあるからこそいい品を獲得できているそう。扱い品はジャガイモや人参などのレギュラー品ほか旬のモノ含めざっと200種類。自身が認めた品だけだけを並べられる喜びを日々感じているそうです。
「商圏は半径100メートルくらいかな。『ここは冷蔵庫代わりなの』と言っていただけるのが嬉しいです。日に何度も足を運んでくださる方も。イイものをすぐに分かっていただけるお客さんが多い分、やりがいもありますが緊張感もたっぷりです」
イイものをお客さんに届けるために毎日が勝負。目利き力、交渉力を存分に発揮できるよう、健康管理のため思い切って17時閉店にし、万全な状態で毎朝市場に向かっているそうです。
「大好きな飲み歩きもなかなか出来ませんが(笑)、おかげさまでお客さん、商店街の皆さんに支えられて楽しい商売をさせてもらっています。飲み屋の『おまかせで』、ではありませんが『ここの商品は間違えない』と全幅の信頼をいただけ、いつかお任せで商品を頼んでもらえるようになりたいな。頑張ります」