店主の小沼さんは美容師を目指して茨城県から上京。2年半が過ぎた頃、新たな世界を知りたくなり、自然と飲食業に目を向けるようになっていました。当時代々木上原にあった超人気のオープンテラスカフェの募集チラシをふと目にし、ダメ元で応募すると採用されたそう。
「経験ほぼゼロからですから洗い場から長い下積み的なものも覚悟していたのですが、早々に火元に立たせてもらえて。運が良かったと思っています。おかげで料理づくりの楽しさにすっかりはまり、今の自分があります。いわゆる修行のような環境ではなく現場で楽しみを感じさせてもらいながら腕を磨かせてもらえたことで、いつかは自分の店を持ちたい、と夢を持つようになっていました」
その後、同店でのご縁で声が掛かり、羽田空港や赤坂、六本木、富ヶ谷、お台場などの新店舗で自身の料理人としてのベースとなるカジュアルフレンチやハンバーガーといった料理づくり、ホールもこなしながら店長や店の立ち上げも経験、店づくりを実践で学び続けました。そして独立の第一歩にと友人が多く住んでいたという渋谷区神山町で間借りをしてビストロ店を始めました。
「最初は友人ばかりでしたが、次第に地元のお客さんもついてくれて嬉しかったですね。都会の店舗ばかりを経験していましたが、どこか小さなまちで地元の人が集うような小さな店を持つのが自分の性に合っているなと気づかされました」
訪れたこともなかったという八幡山の地で軌道に載せたカレー屋の運営は知人に任せ、今度は自身が以前から探求し、愛してやまないうクラフトビールとこだわりの手づくりハンバーガーを都会に行かずとも身近に楽しんでもらえる店をつくりたいと思うに至ったそうです。
「ご縁がつながりなかなか市場には出さない希少なクラフトビールも提供させてもらえています。味はもちろん、作り手の思いもしっかり受け取って、それを軽やかにお伝えすることにやりがいを感じています。クラフトビールは生産量も限られ、一期一会となるものも少なくないので、是非いろいろ試してほしいです」
「こだわりのない創作料理」とご自身が話すビストロ料理の数々は小沼さんの繊細なセンスが光るお酒とのペアリングが追求されたものばかり。季節が感じられる野菜やフルーツが積極的に取り入れられています。無意識にいつも頭のどこかには料理づくりのことが。新たなアイデアがひらめくとすぐメモをして試作にかかり、メニューも柔軟に変えていける毎日を楽しんでいるそう。
「気づけば知り合いも増えて八幡山のまちがすっかり大好きに。やはり地元に愛される店にすることが一番です。お客さんとコミュニケーションを取り、僕自身も楽しみながら自然体に店づくりを進めさせてもらっています。店前の小上がりが気になり入りにくかったとたまに言われますが、ほんと気軽な店なのでドアを開けてのぞいて見てくださいね」