「開業前に僕たちの愛称をSNSで募集させてもらい『駅長』と『助役』に決定しました。面白くないですか(笑)? 屋号も手伝って勘違いされる方もいますが、残念ながら鉄道関係はまったく詳しくないです(笑)」
お酒の知識が豊富なマスターの佐藤充さんは長年古書店で働いていたという異色の経歴の持ち主。お料理上手な奥さまのマキさんとの共通の趣味、美味しい飲み屋さんめぐりが高じていつしか自分たちの店を持つことが夢になっていたそうです。チャレンジショップにて現在と同じコンセプトの立ち飲みバーを営業、現場で経験を積み、念願の開業に至りました。
「ビール党でワインがそれまで得意でなかった妻が、南アフリカワインを知ってからその美味しさと質の高さにすっかり虜に。日本では南アフリカは産地としてまだメジャーでありませんが、季候も土壌もブドウ栽培にとても適しているんです。未知の魅力を自分たちらしく伝えてみたいと思ったんです。同じくまだ醸造の歴史の浅いオレンジワインと合わせてうちの看板に決めました」
「飲食業界の素人」と自称するお二人ですが、美味しいモノへの飽くなき探究心を持って長年飲み歩いた実績はしっかりメニューづくりに生かされています。マキさんが手際よく仕上げる料理はどれもいちから手作り、手間暇かけた逸品ばかり。スパイスやチーズを巧みに操り、ワインに合うメニューを追求しています。主役のワインはマスターがお客さんの好みを丁寧に聞いて、これぞという味を提案、横文字たっぷりのリストや味わいへの難しい表現もここではなしです。
「『おっ』と思っていただけるワインと料理をどんどん紹介したいですね。でも、僕はソムリエの資格を持っていないし、妻もプロの料理の修業をしたこともないからかな、難しいことはやめて、シンプルに楽しく食べて飲んで喜んでいただくことを大事にしていきたいと思っています」
〆のご飯がしっかり食べたいとのお客さんの声を受け、ラーメンやカレーも開発しました。
また、ソムリエを招いてワイン講座や検定の開催、インポーターを招いてのワインを楽しむ会、そしてときには多摩川河川敷でのバーベキュー大会の開催など楽しい企画を次々仕掛けてきた同店、ワインを真ん中にお客さんとの距離をしっかり縮め、この10月に1周年を迎えました。
「毎日でもたまにでもいい、気兼ねなく顔を出してもらえる、究極は豪徳寺の実家のような存在になれたら素敵ですね。元気がない日、疲れた日にこそ寄りたくなるような。『会いにきたよ』って言葉が僕たちの励みになっています」