「自分にもお客さんにもコーヒーを入れるので、せっかくだからたくさんの人に美味しいコーヒーを飲んでもらおうと考えました。プロ仕様の機材を揃えてこだわりの焙煎珈琲店の豆を仕入れて。でもコーヒーづくりの腕はまだまだ新米なので(笑)、お安く提供させてもらっています」
コーヒー1杯が200円から。通りに面したカウンターの出窓からオーダーが入ると、しばし施術の手を止めてコーヒーづくりに。神戸市出身、スタイリスト歴20年のオーナー溝田隆幸さん、高校生になって初めて行った人気サロンでのスタイリング技術に感動し、「自分の手でやってみたい」と美容師になることを決意しました。
美容学校を卒業後、美容師として忙しく働く前に憧れていた海外暮らしを経験しておきたいと思い立ちました。行き先は迷わずアメリカ。大好きな音楽、スケートボード、ファッションを生んだ本場の文化にふれてみたく、アルバイトでお金を貯めて学生ビザで単身LAへ。帰国期限が来てもその気になれず、移り住んだNYで生活のために探し当てた仕事先が日系人経営のヘアサロン。渡米時には想像もしていなかったNYでの美容師デビューを飾ることになりました。
「今思えば我ながら若さってすごいなって(笑)。言葉がしっかり通じなくても辞書で調べてジェスチャーをしてお客さんや仲間とのやりとりにさほど不自由を感じていませんでしたから。アメリカらしく自由にのびのび、刺激的な5年間を送っていました」
同店の東京進出をきっかけに自分が謙虚でいられる若いうちに日本で再スタートしておきたいと帰国を決意。これまで系列の3店舗で15年間働き、満を持して太子堂で開業しました。自分ひとりの手でシャンプーから仕上げまでひとりひとりのお客さんとゆっくり向き合うことが出来るようになり、改めて美容師としての楽しさを日々感じるようになったそうです。
「年齢と経験を重ねたことでお客さんに臆せずご提案ができるようになりましたね。その上で喜んでもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです」
コーヒーも雑貨も、溝田さんの大好きなモノが詰め込まれた「Stoop」の空間、とびきりおしゃれでありながら太子堂のまちにすっと溶け込ませた温かく優しい雰囲気で、1才の子どもから80代の方まで地域の老若男女のお客さんを迎えています。
「ご近所付き合いも増えてきてここでの日常やここから見える景色がとても心地良く感じています。入り口前の路地裏で3才の娘が遊んでいるのを見ながら、高校生になったらコーヒースタンドでバイトをしてくれたらいいなあ、なんて想像してみたりとか。ゆっくりしっかりまちに根差してお客さんと年を重ねていきたいと思っています」