「何かに導かれてここにいる、バウムクーヘンづくりに出会うためにこれまでの経験があったような、そんな思いです。伝統の重さとやりがいをひしひし感じながら日々精進しています」
同店のバウムクーヘンは、食べ応えがありながらも口溶けがよく、そのしっとり感から飲み物がなくても食べられるため「水なしバウムクーヘン」と親しまれ、同店の名を世に知らしめてきました。高齢となった創業者の引退に伴い、他社への事業継承が行われ、原さんが思わぬ流れで伝統技術のバトンを受け継ぐことになりました。
町田市にあった「まちのパン屋」で生まれ育った原さん。漠然と実家を継ぐことを考えていたものの、今は亡きお父さまの進言もあり、製パンにこだわらず、もっと幅を広げて技術と知識を習得しておきたいと調理師学校の製菓部門に進みます。卒業後、千疋屋やイタリアンレストランのパティシエとして洋菓子づくりと向き合ってきました。新しい環境を求めて転職した先が同店を継承することとなり、技術継承という大役を任されることに。尊敬と愛情を込めて「親方」と呼ぶ創業者のもと3年間の修行を経て今日、現場に立っています。
「乳化剤、膨張剤を一切使用せず、こだわり抜いた卵、砂糖やバターなどの原材料で生地づくりをしています。機械制御のオーブンが全盛のなか、回転している芯棒に手作業で生地を塗って層を作り上げます。機械焼きとは異なり、丁寧な手がけだから生地に含まれた気泡を潰さず、しっとりした出来上がりになるんです。生地と火力と会話をしながら、秒単位の作業を繰り返し、1時間集中して1本を焼き上げています。一切妥協はなし、自信を持ってオススメできる、ほんとにいい商品です」
学校帰りの子どもたち、お母さんに抱っこされた小さな子どもがガラス越しに目を輝かせて見学してくれる様子がたまらないそう。ご自身も2歳の男の子のお父さんです。決して華やかで派手な制作風景ではないけれど、こつこつ丁寧なモノづくりのかっこよさが大人にも子どもたちにも感じてもらえたら。
「伝統をしっかり守りながら、時代に寄りそうことも大事かなと思っています。親方も坪型のバウムクーヘンを開発するような遊び心たっぷりのアイデアマンです。自分もいつか新しいワクワクする何かができたら。ご贈答としてふさわしい格を大切にしながら、同時に気軽に立ち寄って食べ歩きしたくなるような商品でもありたいと思っています。ここの風景と味が子どもたちの記憶に残るような店になれたら。二子玉川の定番の商品として認知されるように頑張ってまいります」