ケーキづくりが得意なお母さん、裁縫上手なお姉さん、小さな頃から手間ひまかけた手作りのモノをいつも身近に感じて育ったという金子さん、大学生となり入部した茶道部で初めて挑戦した和菓子づくりに心踊ったそうです。
「『浮島』を見よう見まねで作りました。それまで和菓子は私のなかでは作るモノではなく買うモノだったので、自分で作れることに大感激。以来、和菓子づくりにはまって、せっせと作っては家族や友人にプレゼントしていました」
卒業後一般企業に勤めたものの30歳を機に自分の力で一生続けられる仕事に就きたいと思い立った時、真っ先に浮かんだのが和菓子職人への道でした。一念発起し夜間の製菓学校に入学、和菓子づくりの基礎知識、技術をみっちり学び、卒業後は中野にある個人経営の和菓子屋にて9年間の修行を経て、念願の自店を持ちました。
「ひとりで製作、販売をこなすにはぴったりのこじんまり感、そして目の前に世田谷線がのぞめるロケーションの物件。ここなら自分らしいペースで商売が出来そうと直感しました」
金子さんが目指しているのは進物用ではなく日常の茶菓子を並べ、昔ながらの和菓子屋や団子屋のように気軽なまちのお店になること。通りから店内がすべて見渡せるガラス張りにしているのも、家族の人数分をためらわずに買ってもらえるような価格にしているのもその理由から。定番の生菓子のほか、コーヒー饅頭やチョコ饅頭といった焼き菓子に力を入れているのが特徴です。
「和菓子の焼き菓子って、その美味しさが認知されていない気がしています。和菓子で感じられる四季を焼き菓子でも表現していきたいと思っています。秋にはカボチャ餡、冬にはリンゴ餡を入れた焼き菓子もつくるので、是非食べてみてほしいです」
生地も餡も、和菓子の出来はすべて塩梅が勝負だそう。同じ材料でも気温、湿度を感じながら自身が作りたい食感、見た目にどんぴしゃり合わせるために日々繊細な作業をこなしています。
「和菓子はどこでも買える時代ですが、日持ちをさせる手段が使われたものは、どうしても美味しさが抜けてしまうんです。小さいお子さんにも安心して食べてもらえる材料を用いて、本来の和菓子の美味しさを伝えていくことが専門店を持った使命だと思っています」
休日は仕込みのほか、楽しみながら和菓子店巡りも続けています。新しい味を知るため、美味しいお店があると聞けば、ときには遠方まで足を延ばすことも。期待を裏切らないお菓子を作り続けるために自身の感覚をずっと磨いていきたいと考えています。
「お客さんとの小さな会話が楽しみです。『美味しかったから来年もつくって』『こんな和菓子が食べたいな』、日々のお客さんとの二言三言の会話が楽しく、言葉の数々にたくさん元気をもらっています。ちなみにちょっと変わった屋号は姪っ子が命名してくれました。私の名前の四方子から。名前にあやかり四方八方に愛されるお店に育てていきたいです」