小学校の卒業文集に将来の夢は「料理人」と書いていたという初見さん。飲食店をやっていたお祖母さんの影響か、料理づくりに目覚めたのは小学校入学前。すでに包丁も使い始めていたそう。
「焼きそばとか軽食的なものでしたが、家族に喜んでもらえるのが嬉しくて、子どもながらにやりがいを感じていた覚えがあります。いつだって料理は大事な人を思って愛情を持ってつくる。熱いモノは熱く、冷たいモノは冷たいまま、出来たてを食べてもらうのが一番。僕の原点です」
調理師専門学校の研修でたまたま配属されたのが、かの「四川飯店」。テレビでしか目にしたことのない華やかな本格中華に大感動、漠然と和食の道を考えていた初見さんでしたが中華の料理人の道を歩むことを決意。修業を快諾され同店2店舗に亘り20年間勤務しました。技術はもちろん、料理で人を喜ばせることに人生を注いだ師匠故陳建一氏に有形無形の多大な影響を受けたそうです。
その後、有名店や高級店ではない庶民的な店で、限られた予算でも喜んでもらえる料理づくりで腕試しをしたい、と居酒屋、モツ焼き屋も経験、縁あって「広尾はしづめ」の再建を任され、メニュー開発のみならず、皿選び、盛り付け、店の空間づくりに奔走、僅か数年でミシュランの一ツ星を獲得するまでに押し上げ、3店舗の総料理長として活躍しました。
「自分が店を持つときは大都会ではなく、暮らしのまちで小さな店を、とずっと思っていました。ここは初めて足を運んだまちでしたが、空気の流れが心地よくてすぐ気に入りました。まち中華ではない本格中華だけれど、そのまちにどっしり根を張る店にしたい。ランチで気軽に使ってもらって、『よし、夕飯は柚子にしようか』なんてちょくちょく通ってもらえる地元御用達の店に育てたいと思っています」
見た瞬間からワクワクする彩りも盛り付けも美しい料理の数々、そして口に運べばすっと身体に馴染む優しい味付けも初見さんのこだわりです。どこか和食のような繊細さを感じさせる料理で幅広い年齢層のお客さんの心をつかんでいます。
「豆板醤など調味料もほぼ手作り、化学調味料もできる限り使用していません。軽いコーン油を使用したり、かつおで出汁をとったり、鉄鍋で油通しした後の炒めには油を吸っていないテフロン鍋に切り換えたり。手間ひまは惜しみません」
地位を築いた今も旧知の同業の仲間やスタッフと料理の勉強会を精力的に続ける初見さんは仕事、趣味、生きがいすべてが「料理づくり」だと断言します。
「広大な国土があって4,000年の歴史と言われる中国、実は麻婆豆腐だって僅か100年前からの料理なんです。まだ知らぬ料理の発掘に新しい料理の開発、一生やっても時間は足りないと思っています。進化し続ける老舗になることを目標としています」