「着物ってほんとによくできた素晴らしい民俗衣装。すべてが完全オートクチュール。反物を直線裁断するから無駄な端布がでないし、生地に優しくほどきやすい手縫いで仕立てられているから直して次世代に受け継いで長く着続けられる。そうして日本が誇る和裁士の技術や文化も守られていく。究極にサステナブルなファッションなんですよ」
着物愛あふれる鈴木さんは呉服店で生まれ着物に囲まれて育ち、自然と2代目となる覚悟を持っていたそう。まずは違う世界を知るべきというご両親の考えのもと簿記の専門学校へ進学し、就職先の呉服問屋ではまず経理畑で働きました。
「ちなみに現在修行中の3代目となる私の娘は旅行会社で海外勤務経験をしています。暖簾を守るために親子共々時代に合わせられる新しい感覚を持っていきたい、といつも思っています」
鈴木さんは実家の店に戻り、その後2代目へ。着物を扱うことへの誇りを胸にはや40年以上。その昔、お客さんに慕われ、信頼されたお父さまや番頭さんの在りし日の姿が自身の店づくりの根底にあるそう。
「着物の知識はもちろんですが、お客さまに『人』を好きになっていただくことがすべてと学びました。私は人と会っておしゃべりすることが大好きだから、なじみの飲食店かのように気軽に立ち寄ってもらえる店にしたい、せっかくのお店という空間を皆さんに楽しんでもらえる場にしたい、と。着物の扱いだけですとお得意さまでも購入いただいたり、お直しいただいたりはたまのこと。せっかくのご縁、日常から繋がっていきたいと思いました」
気品を大事に守りながらも親しみやすさ抜群の同店。呉服屋独特の「静」のイメージに「動」の要素がプラスされています。人が集い、着付け教室での楽しいおしゃべりや落語会であふれる笑い声もここの日常。着物好きな方はもちろん、着物に縁がない方も足を運べるこれまでなかった呉服店の在り方を体現しています。
「日本人ってほんとに着物が似合います。お客さまとぞろぞろと着物でお出掛けするとけっこう注目されますね(笑)。コスプレ気分で気軽に着て、非日常を楽しんでほしいです。洋服とはぜんぜん違う新しい自分に出会えますから」
さまざまな洋服のブランド品を楽しみ終え、歳を重ね着物に辿り着く方も少なくないそう。一方、まだまだ着物に縁が人もたくさん。タンスに眠っているだけの着物があったら是非取り出してみてほしい。また、セレモニー時に着物の持ち合わせがなかったらあきらめて洋装にするのではなく、親戚に声を掛ければ必ずどこかに着物は眠っているはず、と。
「ファストファッションとは対極にある着物は、染み抜きや染め直しのお手入れをしたり、ときに帯を変えたりするだけでずっと着られる価値あるものばかり。アドバイスさせていただくので処分などしてしまわず、是非見せてくださいね」