「『障がいのある方だから』『障害のある方でも』という支援的な視点が先ではなく、いち商店としてお客さまに喜ばれるクオリティの高いものをご提供する、という信念をつなぎ営業してきました。地域の方に見守られて28年、感謝の気持ちでいっぱいです」
施設長の荒木さんは同店を運営する社会福祉法人はるに勤務して13年間。大学卒業後、一般企業等で勤務をしましたが、「人」としっかり関われる仕事をしたいと大学時代に学んだ福祉の勉強を思い出し、福祉業界に飛び込みました。
「心の病は一見ではわかりません。最初は自分の知識も足らず、声掛けひとつも身構えることばかりでした。職員という立場ではありますが、今ではお互いの職場であるこの店を一緒にイイ店にしていこう、イイもの作っていこうと考える気の合う仲間になれたかなと自負しています。やりがいもあるし、楽しいです。そんな雰囲気がお客さんに伝わっていたら嬉しいですね」
その愛らしいフォルムが特徴的な看板商品の「アップルパイ」ほか生ケーキも数種、常時30種類が並ぶ焼き菓子、そしてレモン汁を掛けて食べる名物の「レモンカレー」を始めとした軽食メニューも充実。お食事に、喫茶に、お買い物に。地域に開かれた店として尾山台の暮らしの真ん中で、地域のニーズに耳を傾けながら商品開発に取り組んで来ました。
「イイものを作っているという自信がここのブランドを守り、皆の仕事のやりがいにつながっています。利用者さんが作りやすく提供しやすいモノという配慮の上、品質にはとことんこだわり、無添加保存料不使用の身体にいい材料を使っています。そして利用者さんの特性でもあるのですが、計量はきっちり、手順を守ってレシピ通りに丁寧に仕上げています。その正直な仕事から生まれる美味しさがお客さんに認められたのかなと思っています」
カウンター上の黒板には働く利用者さんが自発的に描いたという可愛いイラストメニュー、壁には地域の方の絵画の展示。一部食器は地域の方の手作り作品を使用。ワークショップや展示会も不定期で開催。利用者さんのみならず、地域の方の身近な表現空間としての店の新たな役割も定着。安心して働き続けられ、皆が住み続けられるサステナブルなまちづくりをとてもナチュラルに体現しています。
「コロナ禍休業明けに『ずっと来たかったのよ』とたくさん声を掛けていただけて嬉しかったですね。僕たちのことを心から心配してくださっていたことが伝わってきました。せっかく地域の方が集まってくださる場となっていますので現状に甘んじず、地域への恩返しを含めて『パイ焼き茶房』のできることをこれからも積極的に模索してきたいと思っています」