シェフの寺沢さんは化学専攻の理系大学卒。大学時代の毎日の自炊で料理に目覚め、サラリーマンではなく料理人を目指すことに。最初は吉祥寺の洋食屋へ、その後青山でフレンチの修行をしました。
「クラッシックなフレンチではなく、フレンチの技法をベースに自由に和の食材を取り入れて自由に創作する、いわゆるボーダレスフレンチが自分の性に合っているなと。元々凝り性で試行錯誤をしながら『組み合わせの妙』を追求することがたまらなく楽しくて。どこか化学の実験に近いのかもしれませんね(笑)」
お酒を飲めない寺沢さんと前店で共に働いていたソムリエの山本さんがタッグを組んで独立、「賑やかな駅前ではなく住宅地にポツリでもない」立地の物件を探すなか、2012年ここで開業を果たします。
料理人としてどこで誰が育ててくれたものかわかる、いい食材を扱っていきたいと仕入れ先をさがすなか、アースデーマーケットで静岡県の馬場修一郎農園の有機肥料無農薬野菜に出会い、そして地元の豊かな世田谷野菜の存在を知ります。それらの本来持つ美味しさを寺内さんが最大限に引き出していきます。
「海に近いまちの魚が美味しいように、ここは都内住宅地であってなんて野菜に恵まれているんだろうと。旬の野菜が無理なく新鮮な状態で手に入るなんて料理人として、お客さんにお届けしない理由はありません。ちなみに親しくなった馬場さんも偶然にも烏山出身と知り、野菜がつないでくれた縁を烏山に感じています」
これでもかと旬の野菜がゴロゴロ詰め込まれたヨーグルトとマッシュルームソースの「季節野菜のグラタン」は開業以来の不動の人気メニュー。定番のほか、旬の野菜から次々とメニューを考案、前菜、メイン料理の付け合わせ、ソースとなってお披露目されます。そのラインナップに力を入れているナチュラルワインと融合する優しい味わいのものばかりです。
「野菜が苦手な方に『ここの野菜だけは美味しく食べられるんです』なんて言ってもらえることも。嬉しいですよね」
「山椒風味のホワイトチョコレートムース」「焼きナスのアイス」「とうもろこしのプリン」「春菊のチーズケーキ」。口にするまで味の想像がつかない、野菜を生かしたデザートの数々も同店の人気の秘密。その風味や食感はしっかりしていたり、言われれば気づくような繊細な隠し味のようだったり。どれももちろん美味でありながら初めての味との出会いにお客さんのワクワクは止まりません。
「引っ越しても遠方から足を運んでくれたり、開店当時中学生だった子が家庭を持って来てくれたり。たくさんのお客さんに支えられてきました。お子さん連れも歓迎な気軽な店なので、まだいらしたことがない方は、都会の本格フレンチのデビュー前にまずは地元のフレンチからお試しを(笑)」