「コロナ禍、人に会ってはいけないような日々は店の売上云々以上に私自身が堪えました。お客さんを励ましたり、ときに励まされたり。人に会うことで活力をもらっていたことを痛感させられました」
14年間、歌舞伎町の飲食業界で働いてきた吉崎さん、6店舗のバーの店舗管理マネージャーを務めるなど、人が行き交う都会のど真ん中で飲食業の醍醐味を存分に味わってきました。
「漠然と自分の店を持ちたいと思っていましたが、我が子も独立し孫も出来て、年齢的にいいタイミング、今だって思い切りました。私の小さな孫も安心して遊び来られる店にしたかったので、落ち着いたまちで物件探しをしました」
運良く出会えた当物件は50年以上地域に愛され続けた老舗洋食屋のぬくもり残る店舗でした。そのストーリーに惚れ込み、迷うことなくここでの開業を決めたそうです。
「梅ヶ丘に初めて降り立ったとき、きれいな空気感、道往く人のゆっくりした歩調、なんて気持ちのいいまちだろうって感激しました。地域に根付いていた前店の魅力に頑張って少しでもあやかることができたらと思っています。いい店に育てたい、でも自分の力で出来ることは限られているので、料理上手な仲間たちにも活躍してもらおうと。大事にしてきた人とのつながりをまたここ梅ヶ丘でも育てていきたい、そんな気持ちも強かったです」
前職時代に知り合った現役の役者やWEBデザイナー、他の飲食店の店員といった個性豊かな面々が、それぞれ1日ランチ店長となり自慢の料理に腕を振るっています。例えば、とある木曜日はナカムラユーキさんが担当。お母さま直伝、そしてビルマ人お墨付きのビルマカレーを提供しています。
「仕事や学校帰りの家路につく途中、飲みたい方だけではなく、食べたい方がたくさんいらっしゃることを知り、夜も日替わりのおばんざい定食を提供することにしました。シューマイだったり、メンチカツだったり、ブリ大根だったり。家庭料理をごく普通に手作りしています。栄養のあるものをしっかり食べてもらいたい、すっかりまちのお母さん目線です(笑)」
カウンターに20代の若者同士、その隣に80代の紳士、その隣に子連れの親子。奥の個室には犬連れのカップル。まちではただすれ違うだけであろう人たちが、たまたまの縁で自分の店に居合わせている、そんな不思議な縁が嬉しいそうです。
「来るだけで安心できるような場所、気兼ねのない親戚のような空間に出来たらと思っています。飲まない方も是非足を運んでみてください」