「元々口下手で人前に立つことが苦手だった僕が、今はカウンター越しのお客さんとのコミュニケーションが毎日の楽しみに。人間変わるものですね(笑)」
店主の赤上さんはジュエリーデザイン専門学校卒の元彫金師という異色の経歴の持ち主。手先が器用だったこともあり、何かを極める職人という生き方への憧れからその道へ。4年が経ったころ工房で黙々とこなす作品づくりの日々は楽しくも、一生の仕事として生きていけるか考えるようになっていたそう。
「思い切って未経験の飲食業に飛び込み、居酒屋そして自分の好物である焼肉屋で10数年間働きました。それまで飲食の世界って何か怖いことがあるに違いないと勝手に想像していたのですが(笑)、お店の雰囲気がとてもよくて、やりがいも感じ、これは自分の性に合っているかもって。肉質の見極め、塊肉からの捌きの技術もきっちり学ばせてもらいました」
結婚、お子さまの誕生を機に独立を決意、2015年奥さまの地元である経堂にて、焼肉屋ではなく、自分の焼きの技術までを提供できる鉄板焼きを選び、開業を果たします。口コミで順調に地元のお客さまを増やすなか、建物の漏水事故に見舞われ休業を余儀なくされました。
「1年以上の休業、先の見えない不安に押しつぶされそうな日々でした。このビルのオーナーさんとご縁が出来て『なつきさんなら』と言っていただけたことは感謝しかありません。たくさんのお客さまが『待っていたよ』と来店してくれて。商売が出来る幸せを改めて実感しました」
その日の肉質のいい肉を、との思いから銘柄は決めずA5黒毛和牛から選定。看板のステーキを始め、肉寿司、ローストビーフ、ハンバーグなど幅広い料理を提供しています。素材を焼き上げるシェフの技がライブで見られるのも鉄板焼の醍醐味、お客さんの視線が手元に集まるなか、位置で温度が変えられる鉄板を巧みに操り、絶妙な焼き加減で料理を仕上げていきます。
「肉の美味しさを最大限に引き出す焼き加減は知識を持った上で練習を重ね、最後は肌感覚でやる作業です。笑顔でいながら、内心いつも緊張感たっぷりなんです(笑)」
おなかいっぱいになって帰ってもらうことも料理人として大事にしていきたいところと、ご実家の両親が育てた自慢のコシヒカリをランチは大盛りOK、御前コースはおかわり自由に設定しています。また、こだわりの高級ワインを用意しつつも、好きなお酒と合わせて自由に楽しく食事を楽しんでもらいたいといつも考えているそうです。
「一口ほおばって目をつぶって美味しそうな表情を浮かべてくれているお客さんを間近で見られるのは料理人冥利に尽きます。ネットのそれではなく、生の口コミで来店してくれるお客さんに支えられてここまで来ました。より一層地元で愛される店として精進して参ります」