3階建ての階段を忙しく行き来しながらにこにこテキパキと接客をしているスタッフのひとりが実はオーナーの片寄雄啓さん。愛称「オケイさん」として大人のみならず子どもたちにも親しまれています。元は広告マン、28歳の時の他社へのヘッドハンティングを機に達成感を感じてしまった広告業界から飲食店経営への転身を決意。「目の前の人を喜ばせたい」、そんなシンプルなやりがいを求めての心変わりでした。「30歳までに開業して自店でサッカーのワールドカップを観戦すること」を最初の目標として当時は希少だった窯焼きピザ専門店に修行料を収めて無報酬で働きながらいちから飲食業を学びました。以後17年間経営手腕を磨き、新橋を拠点に多店舗展開を進めてきました。
「コロナ禍をきっかけに暮らしのまちでの開業に踏み切りました。これまではオフィス街でスーツのお客さんがメインだったので正に真逆の立地。独立した17年前と同じようなスタートの気持ちです。普段着の暮らしの風景にふさわしい、とびきり優しい空間にしたい、そこだけは決めていました。もちろんお子さんもペットも大歓迎。食事中にぐずリ出してしまったお子さんも僕たちがちょっと遊んであげると笑顔になって、お父さんお母さんもホッとできる。周りのお客さんも眉をひそめるのではなく温かく見守りながら食事を楽しまれています。この空気感を絶対大事にしたいと思っています」
仕込みに3日間掛かるものもある看板メニュー、「10種の野菜をつかったテリーヌ」を始め常時8種類あるテリーヌを筆頭に、旬を大事にした目にも美しいフレンチメニューがずらりと並びます。ソムリエでもある片寄さん自ら厳選、貯蔵しているワイン100種類の中からグラスでも常時20種類が楽しめます。また、自社醸造所「Okei Brewery Nippori」のオリジナルクラフトビールも提供しています。
「店には腕利きのシェフがいますし、ホールを任せられるスタッフもいますが、どんなに忙しくても僕も現場に立つことにこだわっています。飲食業は経営の醍醐味も後進の育成へのやりがいもありますが、目の前のお客さんと直にふれあえる『接客』は僕の原点、明日も頑張ろうと思えるんです」
明るく楽しい雰囲気が道往く人々にもじんわり伝わる同店、むかしからそこにあったかのように山下の一風景にすっかり溶け込んでいます。
「とてもありきたりな言葉ですが『お客さんに寄りそう』ことをとことん大事にしたい。その分、僕たちもお客さんからたくさん幸せな気持ちにしていただけています。今来てくれている子どもたちの思い出に残る店、そして大人になっても来てもらえる店になれたら最高ですね。一緒に歳を重ねていくことが楽しみです」