「自分が美味しいと思うものを作るから、食べたいものだけを選んで食べてもらえたら。好みじゃないものを出して食べてもらうのも、残されてしまうのも残念だからお通しもなし。何事もシンプルなのが一番、サービス料や席料もいただいていません」

大将お手製の杉玉とオレンジ暖簾が目印の同店、開店と同時にぽつりぽつりとお客さんが来店します。
「開業当初はランチ営業をしたり、スペースを広げて大人数のお客さんに対応したりしていましたが、基本ひとり営業なので自分の身体と相談して今のこの感じに落ち着きました。夜の食堂のような存在でもあるのかな、うちで夕食を食べて横丁の飲み歩きに行く方も多いみたいです」

宗田さんは自然豊かな隣町、岡本の生まれ育ち。大手外食チェーンが展開するアメリカンレストランでの高校時代のアルバイトが料理人を目指すきっかけに。
「料理を覚えたいというより、人見知りだからとキッチンを希望(笑)。皿洗いくらいのつもりが徐々にしっかり調理を任されることに。ハンバーグの整形からパスタづくりまで、修行中のように日々怒られながらも、自分の手で料理ができることにやりがいを覚えました」

日本料理を覚えたいと日本橋の大きな和食居酒屋へ就職。ときに100人の宴会のお客さんの料理を量産する現場での修行、煮る、焼く、揚げる、といったそれぞれの終わらぬ調理を黙々と繰り返す日々の中、技術がしっかり身についたそう。もっと幅広い料理を覚えたいとビストロなど8店を渡り歩いたのち、思い描いた店の雰囲気にぴったりの居抜き物件に縁があり、開業しました

「50代での独立を目標に、妻の店のある祖師谷で小さな店を持ちたいと決めていました。野菜も魚も安くて美味しい旬の食材を中心に、仕入れたものを見てその日のメニューを考えるというスタイルがやりたかったこと。グランドメニューは作らずです。固定しちゃうと作る自分も飽きちゃうしね(笑)。食材を目にしたお客さんのリクエストにも応えています」

旬の野菜の大事な仕入れ先は地元コミュニティでお付き合いのある自宅近所の農家さん。宗田さんが自転車通勤の道すがら畑に立ち寄ったり、農家さん自ら飲みがてら届けてくれる「産地直送」ならぬ「農家直送」の際、美味しい料理で感謝の気持ちを伝えます。
「採れたての美味しい地元野菜をわざわざ取り寄せせず、すぐ手に入るつながりがあることは料理人として本当に恵まれていると思います。例えば、枝豆がいただけたら、ベストな茹で具合、ベストな塩加減でその味を引き立てるのが自分の腕の見せ所といったところです」

降雪予報のとある冬の日の出来事。「積もりそうだったら本日休みにするかもしれません」との手書きの張り紙を店頭に貼って結局休業。雪の中、足を運んでくれたお客さんからもお咎めなしだったそう。
「カチカチしない僕のペースに合っている方がお客さんになってくれいるのかな(笑)。喫煙もオッケーな店です。自分もお客さんも自然体でいられる居心地のよい店でありたいと思っています」



