
「人生熱く生きなければ価値がない」が座右の銘というオーナーシェフの三輪さん。この地でもうすぐ開業20年、日本で先達のいない南チロル料理の探求と伝承に情熱を注ぎ続けています。
三輪さんの地元は太子堂。公務員家庭で育ち、東京農工大工学部の応用物理学科卒。研究に励む傍らのアルバイト先のファミリーレストランで飲食業の醍醐味を知ります。
「大学の研究はその結果が出るのがずっと先。一方、飲食はお客さんの反応がすぐわかり、お金をもらいながら喜んでもらえることが新鮮で。いつか自分にしかできない店を経営してみたい、そのためにも自身が腕利きの料理人にならねばと。大学院進学や教員、エンジニアなどが既定路線のなか、とても驚かれました(笑)」

大泉学園の人気のリストランテで基礎を学び、単身イタリアへ。パドヴァでの修行中に紹介された南チロル料理のあり方に感銘を受け、同地の山奥のリストランテを次の修業先に。自身の手掛けたかった料理が伝統と愛情がにじむマンマのイタリアンであったことに改めて気づかされそう。
「山に囲まれ、冬は大変寒さ厳しい風土。肉と乳製品がとても豊かですが、その環境下で生きて抜くために、燻製を始めとした保存の技術、ジビエ料理の活用など独自の知恵と工夫がいっぱい詰まっています。人柄は温かく、家族の時間をとても大事に生きています。人間らしくてサステナブルな伝統文化をどうしても日本に伝えたいと思いました」

帰国後神楽坂のリストランテで研鑽を積んだ後、都会ではなく暮らしのまちで家族が揃って通えるいつものレストランを、と豪徳寺で同店を開業。小さな子どもにも安心して食べてほしいから専門店レベルのパンもデザートも、手間暇を掛け尽くした生ハム、ソーセージ、サラミなど加工肉を指すサルーミ20種に至るまですべてケミカルフリーで手作りを。また、子ども時分からジビエに親しんで美味しさも自然に覚えてほしいとも。料理を通した小さな食育も三輪さんの目指すところです。


「聞いたことも見たこともない料理名が多いかと思います。肉の煮込み料理『グーラッシュ』を始め、鶏卵も入った粒状パスタ『スペッツレ』や固くなったパンを団子状に活用した『カネーデルリ』など。現地の伝統製法を用いながら、味付けやサイズは日本人向けにアレンジしています。南チロルの方がたまに来店されることもあるのですが、『現地より美味しいですね』って言っていただいています」

美味しさと安全性への妥協なき努力と研究を重ね、燻製生ハムを中心に国内外の評価は高く、超一流のサルーミ職人としての地位も確立。その商品の販路も拡充させるなか、店があることにはこだわり続けます。
「家族に連れて来られていたお子さまが大人になって自分のお金で来てくださる、なんていう最高のご褒美がもらえるのはこの店があるから。自身が描いていた『三輪亭』に近づいてきたかなと。ここでお客さまと歴史を刻んでいきます」


