まちの本屋さんの魅力全開
「商店街に昔からいるみんなが知っている本屋のおちゃめなおじさん」、そんな紹介がぴったりの梅木秀孝さん、3年前に商店街理事長に就任、その人柄で周囲をいつも和ませてしまう達人です。
お父さまは現在地近くで肉屋を営んでいましたが、梅木さんご自身は手に職をつけたいと高校卒業後は料理人を目指しました。「いつかまちの洋食屋さんになりたい」と大手ホテルのフレンチで10年に渡り修行を積んでいましたが、その経験とともに飲食業の厳しさ、難しさに気づかされ、子どものころから大好きだった「本」を売ることを商売にしようと「梅木書店」を創業しました。
人と関わることも大好き、店内のお客さんの様子を見ながら、「何かお探しですか」「今度入荷しておきますね」、そんな声かけをするのも毎日の商売の楽しみのひとつでした。
仕事帰りに地元でゆっくり本に親しんでもらおうと夜10時まで営業していた時期は、サラリーマンのちょっとした憩いの場となっていました。そして日中は小学校の下校時刻を過ぎると子どもたちの溜まり場、なかには毎日のように静かにひとりで立ち読みに来る子どもの姿もあったそう。
「お友だちいないのかな」、そっと心を寄せつつ、話しかけてみたり。まさに本屋がまちの居場所として存在していました。
「今も店にいるときはいつも店前で『おかえり』って学校帰りの子どもに声をかけてます。おかげで小さなガールフレンドがたくさんいるよ(笑)。先生にこう言われたとか、友だちとこんなことがあったとか報告してくれるから、それはきっとね、って一生懸命答えていると途中で『おじさん、ありがとう、またねー』って途中で帰っちゃうんだ(笑)。おもしろいね、子どもって話したいだけなんだよね」
午前中は取引先へバイクで配達、そして商店街理事長、書籍組合の役員もこなす忙しい毎日を送っています。この10年近く家庭裁判所で万引きについての講演を続けています。万引きがまちの本屋をどれほど苦しめているか気づいてほしいと現場の声を届けています。「お話を聞いて泣いてしまいました」、講演後に届く感想文が励みになっているそうです。
「最近は外に出ることが多いので店をしっかり守ってくれる奥さんには頭が上がりません。44年間で有名な作家さんから地元の子どもたちにおばあちゃんまで数えきれない出会いがたくさんありました。僕の財産です。大型店やインターネットに品揃えはかなわないけれど、そことは存在意義が違いますからね。まちの本屋はなくしちゃいけないって僕自身が思っています。」
芦花は1日にしてならず
商店街副理事長がデザインした「芦花Tシャツ」、表には「ROKA was not built in a day(芦花は1日にしてならず)」のロゴ。商店街にはまさに歴史を感じずにはいられない風景がたくさん見られます。都内でも数番目に古いといわれている片側アーケードがその象徴です。
「昭和30年ごろ、先先代たちが『これからは車の時代がくるからお客さんに安心して買い物をしてもらえるように商店街を整備しよう』と店が一斉にセットバックして店前に雨よけのひさしをつけたそうです。それが連なってこのアーケードになっています。合意形成して自分の土地を歩道として提供するだなんてすごいですよ。まちや商店街を一番に考えた先輩たちの生き方、ほんとに尊敬します。狭くて細い歩道だけれど、おかげで濡れずにお買い物ができると今でもお客さんにホッとしてもらえています」
駅から片側アーケードの歩道を抜けた旧甲州街道沿いにある「丸美ストア」もレトロな魅力たっぷりの建造物。アーチ型の薄暗いアーケードの下にポツポツと店の灯りがともっています。
「昔は奥に銭湯があったので、まちのみんなが集まってきてね、その道すがらに生活に密着した物販店や飲食店が立ち並び、賑わっていました。2000年を過ぎた頃から空き店舗が増えてしまって。でもここ数年、この雰囲気を気に入って若い店主の飲食店が出店し始めてくれました。こういう年月が積み重ねられた風情って作りものでは醸し出せないからね。日中に食事をできるところが商店街に少ないってよくいわれるから、若い人たちの飲食店がもっと立ち並んでくれたらなって思っています」
子ども時代の思い出で浮かぶ風景はやはり商店街。テレビもない時代に商店街の空き地で開催されていた映画会、ミッキーマウスの映画を初めて観たワクワク感は今でも鮮明に覚えているそうです。丸美ストア並びの木工所(現オーダー家具「クニナカ」)の2階でおままごとをしていたのも日常の思い出のひとつ。同店前社長の高橋葉子さんは幼馴染み、ままごと遊びから時を超え、今は商店街振興に取り組む仲間となりました。
「昔はここは和室、畳の上でおままごとをしていました。細かいことは覚えてないけれど、僕はキューピーちゃんに似ていたとかでぴーちゃんって呼ばれていたらしいね(笑)。木に囲まれたこの新しい部屋も気持ちがよくて、商店街の打ち合わせでよくお邪魔させてもらっています。高橋さんのように昔から知っている仲間に新しく知り合った人も自然と加わってくれる商店街。下町らしく感じさせているのはそんな芦花の土壌かもしれません。」
商売にかける情熱は負けない
「芦花Tシャツ」背面のロゴ「激熱芦花人=Hard Rocker!」を地で行く熱き商人がたくさんいます。
「ペットサロン ジェニーズ」のオーナーの鈴木静連さんもそのひとり。台湾生まれで日本語、英語、台湾語、中国語を話します。そして、グルーミングスクールの先生やドッグショーもこなす犬のスペシャリストです。
19年前、自分の店も持ちたいと選んだのがこの地でした。それまで商店街というものに関わりや思いは特になかったものの、下町のような温かさと歴史の香りが漂う雰囲気に惹かれ、また、スタッフが駅から雨に濡れず通勤できるアーケードの存在も決め手になったそうです。
ご自身ももちろん大の犬好き、たくさんのわんちゃんに元気に長生きしてほしいという思いで当時から国産やオーガニックにこだわりぬいたドッグフードを販売、販売するペットフードは必ず自ら試食しています。また、歯磨きや歯石とり、泥エステなどの犬の健康や美容というジャンルにもいち早く挑戦してきました。
トイプードルに特化したそのトリミング技術もウリ、多い日は1日で9匹、1ヶ月で200匹のトリミングをこなします。犬へのあふれる愛情とその先見の明のある取り組みでお得意さんを増やしてきました。昨年、日頃の感謝をカタチにしたいと初めて店内でクリスマスパーティを開催しました。会費無料でお客さんとそのわんちゃんをご招待、たくさんのお客さんとわんちゃんで楽しいひとときを過ごしました。
「振り返れば 商売が軌道に乗る3年はきつかったかな。最初は知らない土地にお嫁さんに来たような感覚(笑)。商店街の方たちと話すうちに気がつけば、とっても居心地が良くなっていました。商売をする以上、他の店がやらないことに挑戦しないとお客さんはわざわざ来てくれないと思い、オンリーワンの特徴、新しいアイデア、ベストのサービスを心掛けてきました。家賃を納めてスタッフにお給料を払って自分も食べていけるのはお客さまのおかげです。お客さまは私の大事な友達で宝物、店は私の命そのものです」
60年以上続く老舗「大寿美設備工業」の若き3代目の大寿美宣喜さん、ご商売に商店街活動、水道工事組合の青年部長、組合役員をもこなすバイタリティあふれる商人のひとりです。
「大きな世界を知らなきゃダメだぞ」、親方と呼ぶお父さまの言葉を受け高校卒業後にカナダを放浪、人の助けを待たずに自分で動くことの大切さに気付かされたそうです。帰国後は、飲食業の経験から調理師免許も取得、水泳のインストラクターの経験からライフセーバー資格も取得、ホテル勤務やバーテンダーなどさまざまな職種を経たのち、職業訓練校に通い配管技能士の資格を取得、同業他社で修行を積み、2代目の他界につき、3年前に自店を継ぎました。現在、親方とふたりでまさに「家のお医者さん」として日々、現場を駆け回っています。
「いわゆる、きつくて汚くて危険な仕事かな(笑)。でも親方といつも笑顔で仕事しようって心掛けています。穴を掘って故障箇所を見て作業をその場で判断、100%に直して当たり前、絶対失敗はできないですから、毎回が緊張の連続です。でも、ここ1、2年でしょうか、ふたつとして同じ現場はない設備の醍醐味やおもしろさに気づきました。やりがいのある仕事だなって。『大寿美さんに頼んでよかった』、その一言で全部報われています。大きな宣伝もせずに口コミでここまでやってこられているのはお客さまのおかげ。よく現場で家の鍵を渡されちゃうんです(笑)。『夕方戻ってくるから留守番よろしくね』って(笑)。困っちゃうけれど、本当に嬉しいです。信頼だけは絶対裏切れませんし、僕の代で終わらすわけにはいきませんよ。今は親方と組んでいるけれど、いつかは若い子、女性スタッフも育てていきたいですね」
商店街の夏の大イベント「納涼盆踊り大会」、大寿美さんが小さかった頃は櫓が建てられ、その周りに楽しそうな大人たちとはしゃぐこどもたちがあふれていた三日三晩のあの熱狂が大好きだったそうです。規模は縮小したものの、今の子どもたちにも祭りの楽しさを味わってほしいと、今年も工事現場から飛んで帰り、かき氷ブースを担当しました。
「450杯分、かき氷機を回し続け、さすがに手が凍りました(笑)。子どものころ、うちの旧社屋の前で露店を出していたテキヤのおじさんに『坊主、手伝わないか』なんて声をかけられて。ドキドキしながらちょっと大人になったような気分になったこと鮮明に覚えています。夏のたった1日だけれど子どもたちに商店街で思い出を作ってほしい、そう思います」
可能性はたくさん、商店街まだまだこれから
商店街にほど近い世田谷文学館との連携がここ数年活発です。昨年は人気の商店街街バルイベント「食べロカ飲みロカ」では文豪メニューと題して大作家筒井康隆氏とのコラボが実現しました。
また、文学館主催の「セタブンマーケット」では会場である館内に商店街の人気店舗が出店しました。世田谷文学館の瀬川さんは、商店街と手を組むことによって、少し入りづらいかもしれない文学館が地元の人にとって身近なものになってほしいと願っています。
「ダメ元で筒井先生にコラボメニューをご相談したところ、大変面白がってくださって、先生自らご自身のブログで『酒は芋焼酎のハイボール、料理は烏賊の刺身に炙り明太子をまぶしたものとする』と指定メニューを突如発表、バル当日にいくつかのお店がそれを提供され、話題となりました。商店街さんとの関わりのなかで文学館だけではできない広がりを実感しています。今年の街バルも面白い企画を仕込み中です(笑)。展覧会などの特別な目的だけではなく、商店街にふらっと行くように、うちにも涼みに寄ってくれるような地域の憩いの場になれたら。お互いの賑わいに繋げながら、いっしょにまちを盛り上げていきたいって思っています」
世田谷文学館のほか、商店街からの徒歩圏内に蘆花恒春園もあり、地域のお祭りも盛んなエリアです。毎年、「烏山下町まつり」「烏山地域蘆花まつり」では商店街飲食ブースを設けています。今年の「烏山下町まつり」では梅木さんが飲食ではない要素も増やしたいと地域の子育て団体にも声をかけ、新しい賑わいを生みました。
「環境もいいし、居住人口もたくさん、ポテンシャルの高い商店街だと思っています。足りない業種もたくさんありますし、課題を上げればきりがないけれど、街バルをきかっけに何かが動き出したなって実感があります。これからも商店街内外に新しい仲間をどんどん増やしたいですね。いつでもウェルカムです」