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あきない世田谷

駒澤大学駅前商店会

駒沢らしさを大事に進化していく

駒沢食堂george | 野村良也さん
田園都市線駒沢大学駅の地上、国道246号と自由通り周辺が商店街エリアです。車の往来激しい表通りを少し離れれば、豊かな自然と落ち着いた住宅街が広がり駒沢らしさが漂います。ランドマークは駒沢オリンピック公園と駒澤大学。ここに通う学生や公園帰りの親子連れ、愛犬家たちが活気を生む一方、駒沢の環境のよさに魅了され、暮らしの地として選ぶ人たちも少なくありません。それぞれに愛されてきたこだわりの店々の存在が駒沢の穏やかで上質な暮らしには欠かせません。

大人カジュアルな暮らしのワンシーンに

かの丹下都市設計事務所が設計した自由通り沿いのひときわシックな佇まいのビルの2階、開放的なテラス席とゆったりとした贅沢な店内空間が印象的な「駒沢食堂 george」。2017年度「世田谷キラリ輝く個店グランプリ」特別賞も受賞した区内名店のひとつです。「地域の人に認められ愛される駒沢らしい店に育てたい」、オーナーの野村良也さんの思いがその上質な店づくりにあふれています。慶応大学卒業後、スイス銀行(UBS)、ゴールドマンサックス証券を渡り歩いた国際畑の元金融マンという野村さんが7年前にまちの飲食業に参入しました。

「気づいたら兆円単位のビジネスを追い求め、お金、お金とならざるを得ない世界観にこのままでいいのかと思うようになっていました。そんなサラリーマン生活を送るなかこのビルを建てました。その際に駒沢公園の南風を身体いっぱいに感じながら食事も時間も楽しめる、それまでの駒沢にはなかった店をつくりたいと思うに至りました。華やかなナイトライフではなく、駒沢らしい落ち着いたデイライフのワンシーンに似合う店をイメージしました。外国の方はもちろん、海外生活を知る方たちが駒沢の空気のよさが心地よく離れがたくなるようですが、まさに僕もそのひとりで、お店のオープン時にはこの駒沢に暮らす方々にこのビルとお店を『街の資産』と思ってもらえるようにと心掛けました」

日常づかいにも重宝いただけるカジュアルな雰囲気を大事にしながらも、コロナ禍前は1本数万円ものワインを頼まれるお客さまも少なくなかったという同店、だからこそ味に店づくりにサービスに妥協は許されない厳しさがあります。「僕は料理のことはわからないから」とキッパリ、自身の海外経験で得たワインやメニューの幅広い見聞を活かしつつ、「まずはウェルカムをしっかり、そして気持ちよく帰っていただくためにどうするか」、人と接する要の部分は申し伝え、あとは現場のプロフェッショナルに任せることに徹しています。信頼を寄せるキーパーソンは開業後まもなく入社し、店を切り盛りする畔上店長。

「勤務して7年が過ぎようとしていますが、接客を楽しむなんてまだまだです。求められるシーンに合わせてのお迎えができているか、満足がいただけているか、いつも気を張っています。お客さまの笑顔、『美味しかった』『また来ますね』、そんな言葉に日々助けられていますね」

飲食業という仕事の尊さにすっかり心を奪われたという野村さん。まちの人の日常の食事のワンシーンからプロポーズや記念日の大事な瞬間まで、食を通じて目の前のお客さんとその空間を共有出来る幸せ、そして10円、100円といった単位のお金を突きつめ、よりよい商品づくり、サービスを追求する商売の醍醐味。前職とスケールはまったく違えど、より人間の幸せに直結したやりがいがここにはあると実感しているそうです。

「コロナ禍でうちの経営も大打撃を受けました。でも、もっと苦労されている方々がたくさんいらっしゃいますから。僕は例えば道を歩いていて空からの鳥の落とし物に当たってしまっても、『よし、運がついたぞ』と捉えるタイプ。もちろん本気では喜んではいませんが(笑)、起こってしまった状況、置かれた状況をプラスの発想で変えていくことでここまでやってこれました。この素晴らしい飲食の世界にせっかく出会えたのですから、頑張ってくれているスタッフのためにも挑戦を続けます」

いつも待っていてくれる家のよう

自由通りから半地下に見えるオシャレなカフェの大きなガラス窓は駒沢の変わらぬ風景のひとつ。ほっとできる温かな店内の雰囲気は日々の積み重ねが生んだもの。それもそのはず、開業22年目となる「rice cafe」、チームワーク抜群のスタッフ4名が開店時からそのままに、何気ない毎日を大切にお客さんと育んできました。老舗と言える駒沢のカフェ文化の草分け的存在でありながら、メニューも店づくりも多様に柔軟に変化させて今があります。

「段差のある半地下の店だけれど僕たちの気持ちは至ってフラット(笑)。こだわりと聞かれるならば、自分たちが楽しくお店を営業してちゃんと食べて行けて、美味しいものを提供してお客さんに喜んでいただくことを大事にしてきました。上昇志向が低いのかもしれませんね(笑)」

オーナーの萩原盛人さん(写真左から2番目)はその昔、原宿のレストランで料理長を務めた後、料理の知識を広げたいとたびたび海外へ。食文化や飲食業のあり方に触れ、当時日本では珍しかったキッチンカーでの移動販売に着目しました。日本に戻り、今でも根強い人気を誇るオムライスやカレーの移動販売を開始。飲食店としてではなく、その調理準備のキッチンとして借りたのが自宅に近い現在のこの店舗でした。店先でお客さんと顔見知りになるなか、「夜、駒沢に戻って食べるところがほしい」という声を受け、飲食店として開業することに。「地元の食堂」であるためにはいつも開いていることが基本と考え、営業時間は深夜まで、定休は1年で正月三が日のみ、という一見した柔らかな店の雰囲気とは異なる骨太の営業形態を貫いてきました。コロナ禍も短時間でも店を開け続け、お客さんを待ちました。また、お出迎えしてくれる「はっちゃん」をはじめとした交代で店にやってくる5匹の看板犬の存在も人気の理由。世のドッグカフェ文化のずっと前から犬同伴OKの店として愛犬家にも愛されてきました。

「僕の仕事中の留守が長く、飼い犬同士がケンカしてしまい、やむなく1匹を店に連れ出したのがきっかけなんです。その犬が元祖看板犬となり、自然とお客さんの『犬友だち』も増えていきました(笑)。僕は実家が日本料理屋なもので動物が飲食店にいるなんて、と当初は自身も考える部分もあったのですが時代は変わりましたね」

イタリア北東部エミリア地方をイメージして開発したという「エミリアソースがけオムライス」を筆頭にオムライス、カレー、パスタ、日替わりの定食もの、ケーキに至るまで一から手作りの充実したメニューが並びます。「今日は何を食べようかな」、開店以来毎日のように通い続けるお客さんが少なくないのも納得です。

「同じものだけ調理していれば楽かもしれませんが腕もマンネリしてしまうし、スタッフ皆がつくること食べることが大好きですから自分たちも飽きてしまうんです(笑)」

21年の月日はかけがいのないつながりもたくさん育んできました。アルバイトをしてくれていた子たちが世代を超え誘い合って遊びに来てくれたり、家族連れのお客さんの赤ちゃんだった子の成長を来店いただくたびに見守るうちに大学生となり謝恩会の会場に利用してくれたり。

「お店を開けていればいつでも人に会えるってとても幸せなこと、このコロナ禍で痛感しました。誰かに会いたい人、静かに食べたい人、僕たちとお話したい人も、看板犬に会いに来てくれた人も皆さんにとって居心地のいい「rice cafe」』の毎日を続けていきます」

技と心を詰め込んだ豆腐づくり

「赤ちゃん、子供、孫、両親、祖父母、家族、あの人,,,.。大切な人のための豆腐です。自分の分も忘れないでね」

三代目の武藤常陽さん、雅江さんご夫婦が切り盛りする昭和6年創業の「安達屋」は、その思いを看板の屋号の下に小さくしたためています。老朽化による店舗建て替えのため1年もの休業を経て、待ちに待たれた「いつものお豆腐屋さん」がこの9月に帰ってきました。新しい調理場で朝の4時過ぎからの豆腐づくりを常陽さん、その後ふたりで揚げ物をつくりながらお客さんを出迎えます。

「これしかできないから」と前置きをしながら、妥協なき豆腐づくりに日々情熱を傾ける常陽さんは現在地で個人商店に囲まれて育った商店街っ子。小学生になると夏休みにはゴム長靴を履いて店の手伝い、掃除も水遊びの延長のようで楽しく、寝る間を惜しんで働く先代の背中を見ながら育ち、ごく自然の流れで店に入ったそう。やがて時代は変わり、ただのお豆腐でいいのならどこででも買える時代に。

「一生懸命働く父を心から尊敬する一方、その豆腐づくりではもう通用しないと感じました。世の中全般が豊かというか贅沢になって、『食』はお腹を満たす目的ではなくなりましたから。絶対的な美味しさで勝負することが生き残る道だと思い、自分が惚れ込んだ豆腐屋に修行に入り、豆腐を理論で学び直し、研究し、新たな技術で豆腐づくりに向き合い、今の豆腐に辿り着きました。素材を選び抜き、自然の美味しさやうまみを引き出すため、従来の何倍もの手間と時間をかけています。とはいえ、まだまだわからないことだらけ。だから面白くて重労働でも続けているんでしょうね(笑)。まちに残っているお豆腐屋さんはみな、少なからず同じ情熱と思いをお持ちだと思います」

先々代の時代から応援してくださるお客さまから最近増えてきた若いお客さままで、皆さんとご縁を大事につなげていきたいと店頭の会話ではなかなかお伝えできない商品への思いや感謝の気持ちを1、2月に1度発行の「安達屋だより」にしたためています。ブログやホームページも活用しています。ご夫婦のお人柄さながらのほっこりした「おとうふ君」は、イラストレーターのお客さまからの贈り物。店のトレードマークとしてお客さまに親しまれています。

「スーパーやコンビニで間に合うものを求めて、決して安くはないうちまでわざわざ足を運んでくださるお客さんには感謝しかありません。自分の作品を食べてくださる方に直接会えて、声を掛けていただけて幸せですよ。食生活そのものを大事にされている方たちに支えていただいています。1年間の休みからの社会復帰(笑)、僕たちらしくのんびり、ぼちぼち、でも丁寧にお客さんの期待に応えていきます」

変わりゆく未来に向けて

6年後完成を目途に商店街エリア中央部の再開発が着手されています。未来に向け商店街一丸となっての新たな視点を持ったまちづくり求められるなか、野村さんは期せずして商店街副会長に抜擢されました。

「正直、気づいたらなっていました(笑)。僕なんかでいいのですか、って今でも本気で恐縮しています」

自身の育ちには商店街との関わりはなかったものの、先輩店主たちと知りあうなか「人と人のつながり」「店と店のつながり」の温かさにたびたびふれ、まちを大切にすることの尊さを改めて感じたそうです。コロナ禍という窮地のなか、商店街加盟店へいち早く衛生品を配布するなど、いざという時の商店街の組織力、行動力を目の当たりにしました。

「まちの発展を思い、大規模な再開発という来るべき変化も前向きに捉え、暮らしのライフラインとしての商店街の役割を大事に考えながら、個店が光っていこうと皆で頑張っています。だから駒沢はきっと進化します。これから、とても楽しみですよ」

駒澤大学駅前商店会

代表者
関實会長
最寄駅
東急田園都市線「駒沢大学」駅
住所
駒沢2-1-13
TEL
03-3421-3480