世田谷の商店街を見つける、つながる

あきない世田谷

千歳船橋参商会商店街

毎日の暮らしを支える商店街でありたい

花春 | 安藤範雄さん
いつも人通りの絶えない小田急線千歳船橋駅前、その南側に広がるエリアが千歳船橋参商会商店街です。賑やかな商店街入り口を進むと、古き良き昭和の風景にタイムスリップ、曲がりくねった路地ぞいや住宅地へ続く道すがらに昔ながらの生鮮の店や物販店、情緒たっぷりの飲み屋など、これぞ商店街といった商店もまだ健在です。加えて個性豊かなイマドキの店もちらほら、その風景にしっくりなじんでいます。店先のおしゃべりだっていつもの光景、「毎日のお買い物」が楽しめる貴重な商店街です。

自分を育ててくれた店と商店街を守りたい

老舗生花店「花春」3代目の安藤範雄さんは、「仲間がいるからできると思った」と5年前より商店街理事長に就任、各世代から愛され頼られるまちのリーダーです。学生時代はラグビーに打ち込んでいたとのこと、さわやかな人柄に納得です。お祖父さまが64年前に開業した現在地で花に囲まれて育ちました。家業が忙しく、家族揃って出掛けた思い出は少ないものの、商店街の大人みなが自分を知っていて毎日声をかけてくれる、同世代の遊び仲間だってたくさんだった子ども時代、さびしさを感じることはなかったそうです。大学卒業後は同級生たちにならい、何の気なしに大手企業に就職、営業マンとしてバリバリ働いていました。

「結婚後、商店街から離れたところに住みました。ある時育ったまちを見てふと思ったんです。不景気で花屋の売り上げは低迷、商店街に自分が小さかった頃のようなあの活気はなくなっちゃったなって。何とかしたい、いや、何とかしなくちゃいけない、なら、店を継ごうって気持ちが動きました。当時は葬儀社などの得意先を増やすため、名刺を持って地道にあちこちの企業を回りました。営業マンの経験が随分に生かされました(笑)」

店舗での小売はお母さまとスタッフが主に担当、安藤さんは市場への仕入れ、水やり、配達、葬儀のご用命がある日はセレモニーのお花の準備、普段着からスーツに着替えて配送、現場での設営、撤去と毎日忙しく飛び回っています。


「花屋の労働の大変さはわかっていましたが、人を雇ってお給料を支払うっていう部分で責任の重みがちがいます。でも、商売って浮き沈みはあるけれど頑張れば頑張っただけ自分にも返ってくるというところが自分の性に合っているのかな。花屋を継いでよかったです」

慌ただしい毎日のなか、安藤さんが思わずほっとしてしまうのが午後の花屋の風景。お母さまとのおしゃべりを楽しみに常連のお客さんや近所の店の奥さま方が店に立ち寄り、ちょっとした社交の場になっています。

「井戸端会議っていうのかな、商店街っぽくて悪くないよね。店前にテーブルや椅子も出してあげてゆっくり過ごさせてあげたいぐらい(笑)。まずは日常的に人が集まってこそじゃない、賑わいって」

物販店に輝き続けてほしい

まちに華やぎや彩りを生み出してくれるのが飲食店なら、物販店の存在は地域の人々の生活を支える核となる部分といえるでしょう。「商店街は昼間の買い物客がいてくれてこそ、と思っています。物販店、どんどん増えてほしいですね」と安藤さん。

商店街自慢の名店のひとつ、趣深い佇まいの老舗和菓子店「東宮」は昭和37年の創業以来、本物の味を提供し続けています。創業者であるお祖父さまは全国に和菓子の技術を伝えた名だたる人物、その伝統の重みを繋ぐ3代目の宮澤昭憲さんは大学卒業後、8年間銀座のイタリア料理店で働いていたという経歴の持ち主です。和菓子職人としてのスタートは30歳、年下の先輩職人たちに囲まれ、腕を磨きました。当時、修行を終えた夜には作品作りに没頭、腕試しと技術の向上を目指して日本和菓子協会の品評会にもチャレンジをし、優勝をおさめた年もありました。

「家業はいずれは継ぐもの、と思っていましたが、先代には『まずは好きなことをしたらいい、洋服でも洋菓子でもいろんなことに興味を持ちなさい』とだけ言われていました。微妙な色使いや繊細な装飾を施す和菓子を生み出すために感性を磨いておいてほしいという思いだったんでしょう。自分のセンスで材料選びから始めて美味しいものを完成させてお客さんに喜んでもらえるのが醍醐味、イタリア料理も根本は同じでしたね」


仕入れ品はなし、商品すべてが宮澤さんの手作り、毎朝6時から作業にかかります。添加物を使用しないため長時間の輸送ができず、お取り寄せのニーズに応えられない商品もあります。手間はかかれど、本来ある素材で安全な和菓子づくりは絶対、本物の餅が翌日に硬くなることは当然のこととはいえ、驚かれるお客さまも。「できるだけ早めにお召し上がりくださいね」、お母さま、叔母さまが言葉を添えて販売します。

「お茶の世界といっしょで和菓子は季節を先取りして表現するもの。和菓子屋は日本文化を伝承する役割も担っていると思っています。和菓子を通して旬の素材を味わい、四季を感じながら年中行事も大事にしてほしいなって思っています。若者の和菓子離れを聞くと寂しいです。スーパーの和菓子しか食べたことはない方に本物の味も知ってほしいと切に思います」

「商店街副理事長をしています。安藤さんと顔を合わせるとはやっぱり話題は商店街のこれからのこと。飲食店が増えて夜は楽しめるまちになったので、自分たちの小さい頃のように物販店がもっと頑張らないとって。数年前、人気スーパーのほど近くに八百屋『中野八百秀』がオープン。大丈夫かなって思っていたら、今や人気店、いつも賑わってます。元からいる自分たちからしたらすごいなって刺激を受けましたね。ああいうふうにこの商店街でチャレンジしてほしいですね」

新しい業種の新しい仲間

今までにはない業種が商店街に仲間入りをする昨今、ご自身も現役ママである亀山祥子さん(写真右)がオーナーの「CHARLIE HOUSE AGITO」もまさにその好例、新しい親子連れの流れを商店街に生み出しています。働くママが子どもを預けたり、貸しスペースとしてワークショップを開催したり、と広くママたちを応援するいわばプラットホームのような施設です。

「自分自身が子育てをしながら働く窮屈さを痛感しました。時間に追われイライラ、家族も笑顔を忘れ、これって絶対子どもによくない、なら自分で事業を立ち上げようって。いわゆる子育てそのものだけを支援するのではなく、ママたちが生き生き働けて、ちゃんとお金も稼いでもらえるビジネスを構築したいと思いました。一民間企業として面白いことができないかと」

働くママに、社会に、どんなことが求められ、どんなことがビジネスとして成り立つか試行錯誤のなか、情報を集め、経営を学び、ネットワークも広げました。営業でつなげた企業から仕事を受託、ママたちに特技や趣味を生かして子育てで空いた時間を生かして無理なく働いてもらい、子どもの預け先として「CHARLIE HOUSE AGITO」を機能させています。木に囲まれた温かい自宅のような空間で子どもたちはゆったり過ごし、ママを待ちます。また、「CHARLIE HOUSE AGITO」では保育士、看護師、チャイルドマインダー(家庭的・少人数保育の専門職)のママたちに子連れで働いてもらっています。雇用を生むことで、親子の笑顔を生み、保育の場の充実にもつなげています。


海外経験の長い帰国子女の亀山さん、古くからの商人に負けないコミュニケーション力とバイタリティを発揮しています。あふれるパワーを育んでくれたのは育ててくれた家族の笑顔と愛情。「与えよ」の精神がモットーであった、商店育ちで明るく前向きなお母さま、お祖母さまの影響が大きいと自己分析されます。小さい頃からたくさんの大人に見守られることの大切さはご自身が生きてきて実感していること。

「商店街の真ん中に店舗を構えて正解でした。当たり前にお店の人と挨拶をする日常が好き。子どもたちと歩いていると自然に声を掛けてくれて。いろいろ教えてくれるし、助けてくれる。まちが大きな家族みたいなこの雰囲気はずっと続いてほしいです。今後、うちで働いた経験を生かしたママが社会でたくさん活躍してくれることがいちばんの夢、そして地域の経済に貢献できる企業にしていきたいです。頑張ります」

人がつながる商店街 今までもこれからも

亀山さんが商店街での開業を決めたのはある人と出会いがあったから。地元密着の不動産店「わくわく・世田谷不動産」代表の倉沢さんがその人です。物件さがしを通じて意気投合しました。

「女性の不動産担当者を探していたんですが、倉沢さんが親身に私の考えや気持ちに寄り添い、ぴったりの物件と巡り合わせてくれました。ご縁ってこういうことなんだなって。このまちや商店街のことを教えてくれて、不安なく仲間入りすることができました。以来、お友だちみたく相談に乗ってもらったり、プラーベートな愚痴を聞いてもらったり(笑)。心強い存在です」

安藤さんたちにとって幼い頃は遊び場のひとつであった商店街の真ん中に立地する「稲荷森稲荷神社」、緑に囲まれた広い境内は商店街を訪れた人がちょっと休息をとるのにぴったりの癒しの空間。神社の例大祭は商店街のメンバーも担ぎ手となる大神輿が商店街を通り、商店街の夏の納涼盆踊り大会では会場となります。

「子どもの頃は塀を登って前の宮司さんにたびたび怒られた苦い思い出が(笑)。近くにこんな立派な神社があるのは商店街の財産です。神社、地元の町会とのつながりを大事にさせてもらっています。商人だけではいいまちにはできないですから」

地元で愛され続ける昔ながらの肉屋「肉の天野屋」の太田さんは、安藤さんの前の商店街理事長、現在は副町会長も務める、いわばまちの長老のような存在です。二人が顔を合わせれば、話すのはまちのこと、商店街のこと。世代は違えど、まちを思う気持ちはいっしょです。

「太田さんの誘致でこの10月、「TAMAS」が出店しました。永年愛されたパン屋さんが長期休業されてしまい、まちの皆さんのパン屋さんがほしいとの声を実現されました。自分の店のことだけではなく、広くまち全体を見渡していく考え方を大事に継がせてもらいました。ちょっと顔を出さないと『安藤くん、偉くなって忙しくなっちゃったな』とからかわれ、参ってますが(笑)」

昔のようにまちのみんなが知り合いとはいかずとも、古くからのつながりがあり、よそから来た人も地元の人と自然とつながっていく、その新しい輪が確実に広がっている商店街。

「昔は商店街で野球チームがあったり、旅行に行ったりしていたそう。やっぱり商売する者同士、ちゃんとつながっていかないとダメだよね。いいまち、いい商店街にしようぜって同じ方向を向いたチームにならないと。最近、僕らの世代もゴルフに行ったり、釣りに行って釣った魚を飲食店で調理してもらって一緒に飯食ってワイワイやってます。新しい仲間をもっと増やしていきたいです」

千歳船橋参商会商店街

代表者
安藤範雄理事長
最寄駅
小田急線「千歳船橋」駅
住所
桜ヶ丘2-29-5
TEL
03-3427-3770