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あきない世田谷

等々力渓谷商店街振興組合

商店街発信で等々力愛を届け続ける

商店街事務局長 | 豊田浩さん
東急大井町線等々力駅から広がる等々力渓谷商店街エリアは都内有数の高級住宅街。そして等々力渓谷の豊かな自然を求めて遠方から来街する人もたくさん。だからこそ、商店街だって賑わいがないわけではないけれど、もっと元気に、もっと楽しく盛り上げられるはず、と商人たち。そんな思いを込めてゆるキャラ「とどロッキー」が誕生しました。一見した瀟洒なまちのイメージからはちょっと意外かもしれない、人情や力強さがたくさん詰まった、実は熱い商店街です。

楽しいことで商店街に人を集める

「豊田さんに言われたらことわれない(笑)」と商店街でよく聞かれる言葉、「無理に頼んでるみたいじゃん(笑)」とはご本人の弁。飾らない人柄が魅力、皆に頼りにされる豊田浩さんは生粋の等々力っ子、70年続いた、まちのおもちゃやさんの3代目でした。時代の流れに抗えずやむなく10年前に閉店、以後はまさに適任と言える、専従の商店街事務局長として働いています。ご自身が育った生鮮三品も揃う、あの昔ながらの商店街のまち並みを回顧しつつも、この時代にできることを、と考えています。そのキーワードはまずは「楽しく」、そして「仲間づくり」です。商店街内外に関わらず、顔見知りを広げ、気がつけば仲間と呼べる関係を紡いでいます。イベントを手伝ってくれたことがきっかけで商店街理事になってくれた地元のサラリーマンの方もいるそう。

6年前には商店街でバンドも結成、総勢12人という大所帯の仲良しバンドの名前は「とどロッキーズ」。年に1度の演奏発表の場は夏の大イベント「おどろきとどろき祭り」の舞台、豊田さんはサイドギター担当、たまに歌声を披露することも。

「商店街以外の地域の方もメンバーになってくれています。等々力在住のプロドラマーも参加してくれていて、正確なリズムで僕たちの演奏を引っ張ってくれています(笑)。皆が知っている昭和歌謡を選んでいるのでお客さんも盛り上がってくれます。楽しいことをどんどん発信して商店街にお客さんを集めて、『なんか等々力の商店街っておもしろいかも』って商店街のファンになってもらうことが僕にできることかな。なんて自分自身が存分に楽しませてもらっています(笑)」

その大きさとインパクトのあるフォルム、一度見たら忘れられないゆるきゃら「とどロッキー」は、商店街愛あふれる商人の熱意から誕生しました。筋骨隆々の「とど」、ボクシングと甘食が大好きな生粋の等々力男子だそう。そのおちゃめなキャラクターで商店街の人気者になりました。商店街イベントのみならず、等々力のPR大使さながらに近隣大学の学園祭やときには地方のイベントにも出向いています。

「『とどロッキー』のアイデアが提案され、お〜おもしろいねって。ああでもない、こうでもない、とみなで盛り上がり、よし、やってみようって。初めて『とどロッキー』に会った時は思った以上にでかくて一同たじろぎましたが(笑)。ノリも大事に、楽しくやりたいことにチャレンジしていこうっていう雰囲気はこれからも大事にしていきたいです」

商店街の土壌をつくってきた店があって店主がいる

さまざまな業種の大手チェーン店やスーパーは安定した便利さを提供してくれる存在である一方、画一的ではない商店街の個性はやはり地域に根差した商店があってこそ。等々力にも、確かな技術でお客さんの心を掴み、商店街を支え続けてきた商店主のいるお店も少なくありません。

老舗クリーニング店「サトー洋洗」もそのひとつ。大手チェーンのクリーニング取次店が増えるなか、すべての作業工程を自店で手掛ける貴重なお店です。2代目店主の佐藤廣樹さんは4年間のサラリーマン経験を経て、自店に入りました。サラリーマン時代、当たり前にお父さまが仕上げてくれていたスーツやワイシャツで職場に。その佇まいを褒められることも多く、寡黙な職人肌であったお父さまの確かな腕を改めて感じさせられていたそう。

「洗い、シミ抜き、アイロンとクリーニングの作業ってどれも料理と似ているんです。見えないところで手間と愛情をかけた前処理、下ごしらえで仕上がりが全然違ってきます。素材と対話をしてひとつひとつ作業を進めています。今でもシミの部分を丁寧に糸で目印して持ってこられるお客さまもいらっしゃいます。大事にされているモノを預けてくださっているんだな、とこちらも身が引き締まります。お得意さんに『佐藤さんにお任せするわ』って言っていただけることが一番、信頼いただけているんだな、って。決して効率のいい商売じゃないかもしれないけれど、60年近くもやってこれている。うちのやり方は間違ってなかったと思っています」

豊田さんの地元の先輩であり、商店街青年部長としても前任者であった佐藤さん。職人さんにも手伝ってもらいながらもクリーニングの受付、作業、配達とほぼひとりでこなす忙しい毎日、以前のようには商店街活動に時間が作れなくなった分、若い人たちの仲の良さ、盛り上がりをとても心地よく感じているそうです。

「商店街組織って昔はどうしても閉鎖的だったと聞いています。地元育ちの2代目もよそから来た若い人も、まちのために、自分の商売のために一緒に楽しく頑張っているのが伝わってきます。オープンでフラットですごくいい雰囲気だなってね」

まちと人の深いつながりに魅了された

横浜のニュータウンで生まれ育った松田卓也さんもそんなひとり。サッカーに本格的に打ち込んでいた学生時代、度重なる怪我に寄り添ってもらえたことがきっかけで柔道整復師の道を選びました。10年の修行を経て、11年前に「等々力まつだ接骨院」を開院、落ち着いた住宅地というイメージが気に入り、等々力を選びました。まちの人たちがこんなにつながっている地域とは思いもしなかったそう。商店街への関わりがきっかけで気がつけば、町会でも活躍中、すっかり等々力になじんでいます。

「地域や商店街に特に馴染みがなく育ってきたから、新鮮なことばかり。自分が神社の祭りで神輿を担ぐことになるなんて思ってなかったです(笑)。自分がまちに浸透していく感じは居心地がいいし、楽しいですね。いろんな人と接する機会は職業的にもすごくプラスになっています」

「施術を通して地域や社会に貢献していく」という理念のもと、技術はあくまで土台、患者さまの気持ちに真に寄り添うことができてプロフェッショナルな柔道整復師といえるそう。昔ながらの町医者のように患者さまに頼ってもらい、笑顔で帰っていただけることが一番のやりがい。身体を預けていただく職業、信頼関係なしでは成り立たないと日々痛感しているそうです。

「お金をいただいているのに『ありがとうございます』ってたくさんお礼を言っていただけます。『こちらこそありがとうございます』って気持ちでいつもいっぱいなんです」

松田先生のもうひとつのやりがいは現場で人を育てること。技術以外の大事なことも等々力でたくさん学んで巣立って成功してほしい、そんな思いからまちの行事には従業員も参加させています。

「将来、新しいまちにいったら、まずは豊田さんみたいな人を探してちゃんと挨拶に行けよって。きっと力になってくれるからって話しています」

もと畳屋さんをリノベーションした風情たっぷりのケーキ屋さん「マウンテンハット」、開店して5年が経ちました。大田区生まれの大山康二さん、鎌倉などの洋菓子店で修行を積み独立を決意、落ち着いた土地柄と前々から決めていた山小屋を意味する屋号にぴったりの物件に運命を感じて選んだそうです。

大山さんがパティシエを目指した原点は、小さい頃お姉さんといっしょに作ったお菓子を家族に褒めれたこと。日常的に家族で安心して食べてもらいたいと添加物を使わず、身体にも優しい、飽きのこない味のケーキづくりを心がけています。元奥様という異色のビジネスパートナーとタッグを組んだ、見た目にも美しいケーキは地元のみならず、遠方からのお客さんの心も掴んでいます。等々力渓谷に来たついでにも立ち寄るのにぴったり、まさにほっとできる山小屋のようなお店です。

「ケーキ屋さんて買わないと入りづらいじゃないですか。店内にふらりと気軽に入ってほしいのでカフェにして、ランチプレートも提供することにしました。お客さんの反応がじかに見られるのも楽しいですね。クールにコーヒーを入れているときも、『美味しい』って声が聞こえると実は小さくガッツポーズしています(笑)」

高級感あふれるケーキが増えている昨今、ケーキを買う敷居がどんどん高くなってしまっていると感じるそう。ショートケーキ、プリン、シュークリームという子どもたちが大好きなケーキは、ほんとは子どもが楽しみにお小遣いで買える値段にしたい。そんな思いで、せめてシュークリームだけはと150円での提供で頑張っています。

大山さんの大好きな光景は小さな子どもがショーケースにペタッと手のひらをつけてケーキを真剣に選んでいる姿。「ガラスが汚れるから」と慌てるお母さんに、「気にしないでくださいね」というのは大山さんの本音だそうです。

「お店を持つ以上はその地域で愛されるお店になりたいとは思っていました。挨拶するまちのひとがたくさんいる日常って楽しいなって感じています。なかなか店を空けられないので抽選の景品に参加したり、まちバルでみやげ品を出品したりするくらいですが、地元を大事にすれば、お客さんも見てくれているんだって思います」

素晴らしい地域資産を生かして

東京都の名勝にも指定され、23区唯一の渓谷である等々力渓谷の大自然は地域の人たちの宝。その自然を守るため、商店街が音頭をとって15年も前から毎月14日に清掃活動「クリーンとどろき」を続け、渓谷の美化につとめています。

等々力渓谷の力を借りてもっと商店街への活性化につなげていこうと、昨年、商店街名を等々力商店街から等々力渓谷商店街に変更しました。15年前から姉妹都市である川場村との提携でご当地ビール「とどろき渓谷ビール」を販売し、お土産品として、また、商店街内の飲食店でも提供しています。

「黙っていても等々力渓谷がたくさんの人を連れてきてくれるんだから、僕らももっと頑張らなきゃいけないって。渓谷に来た人が商店街に立ち寄ることも楽しみに観光プランに入れてくれるようにならないとね。飲食店は特徴を出しやい業種なので、渓谷ならではのメニューを考えてもらったりできたらいいな、と思っています。お昼を食べるとこが少ない、とよく言われていますから、まだまだ需要が追いついていないんです。飲食店はじめ、新しいお店が増えてほしいですね」

等々力渓谷商店街振興組合

代表者
市川康夫理事長
最寄駅
東急大井町線「等々力」駅
住所
等々力2-32-11 森田ビル3F
TEL
03-3702-0747