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あきない世田谷

経堂シンフォニー商店会

新しさとなつかしさの調和が楽しい

村上葬祭 | 村上篤哉さん
小田急線経堂駅南側から少しだけ離れたところにある経堂シンフォニー商店会。だからこそ、少々歩いたって行きたくなる、「ここにしかない買いたいもの、食べたいもの、そして会いたいひと」が揃っている商店街を目指してバージョンアップ中。「こんないい店があったんですね」というお客さまの反応が手応えのひとつ。古き良き商店街を舞台に、よそから来た個性豊かな若い商店主たちが伸びやかに自分らしさを発揮、その名の通り、新しい「シンフォニー」を生み出しています。

若い商店主を応援したい

創業は昭和12年という老舗葬祭店「村上葬祭」で育った村上篤哉さん、将来の起業を目標に大学卒業後は大手飲食店を展開する企業に就職。やりがいを感じつつも時間に追われる日々を送るなか、お客さまに丁寧に寄り添い、その想いをくみ、葬儀というカタチにする葬祭業という商売の深さに改めて気づかされ、数年後、自ら自店に入りました。

すべてのご葬儀がそのご遺族にとって一度きりのかけがいのないもの、精一杯の真心を込めて全身全霊で対応します。「村上さんに頼んでよかった」という言葉をかけていただけるたたびに、「いい仕事をし続けなければ」と深く心に刻むそうです。

お客さまからの信頼やご縁がすべてとも言えるご商売、その商売をさせていただく地域に感謝し、義理人情を重んじて生きることの大切さはお父さまの背中から学んできたこと。今度は自分がこの地の商人の先輩として、よそから来た若い商店主に、そんな想いをつなげていきたいと商店街活動の大切さ、楽しさを体現しています。誠実な人柄と真摯なその姿勢に若い商店主たちも自然と心惹かれ、新しい仲間の輪が広がり続けています。

「縁があってうちの商店街を出店先に選んでくれたのですから、ここで絶対に商売で成功してほしい、そんな気持ちでいっぱいなんです。彼らが今まで積んできたキャリアや知識、発想力や発信力、すごいなあって感心させられることがたくさんあります。そしてそのセンスや能力を是非、商店街活性化にも生かしてほしかった。温故知新の心と言うんでしょうか、昔から商店街が大事にしてきた人と人、店と店がつながることの大切さ、温かさをたっぷり知って感じてもらいながら、でも、臆せず挑戦して商店街を進化させてほしい。その進化が上手に根付くよう調和させていくことが僕の役割だと思っています」

村上さんの地元の先輩であり、よき理解者である老舗総菜屋「和孝」の井村さん。お二人は思いをひとつに商店街を盛り上げ、まさに多世代のパイプ役となっています。若い商店主たちにとっては優しい兄のような存在です。

「あえていうなら、井村さんが外交担当、僕が内部調整担当というところでしょうか。僕が仕事柄、いつ飛んでいくことになるかわからないという状況のなか、井村さんは彼らの店にもざっくばらんにひょいと顔を出して、どんどん関係を深めてくれています。人をつなぐ接着剤のような先輩です」

お隣同志も悪くない

「台風やばかったね。圭ちゃん、鉢植えしまってくれてありがとう、今度ビールおごるよ」「何杯にしようかな」、まるで昔からの商店街仲間のように楽しそうに立ち話をしているのは、とびっきりおしゃれなお店の、とびっきりおしゃれな商店主たち。

8年前に開業した美容院「GARAGE」の大沼圭さん、ご本人曰く “静かめに”仕事に励んでいたところ、一昨年、羽生桂さん、いづみさんご夫婦のアクセサリー・雑貨のセレクトショップ「ILHA(イーリャ)」がお隣に開店。「すっかり落ち着かなくなりましたよ」となんだか嬉しそう。

岡山県で育った大沼さんはご実家も美容院、上京して下北沢の美容院で10年働いていました。分業制の美容院だったため、お客さんの髪を最初から最後まで自分ひとりで責任を持って手掛けたい、そんな気持ちが日に日に大きくなり、結婚を機に独立を見据えました。駅前から少し離れている分落ち着いている雰囲気が気に入り、この地での開店を決めました。

「いかにも美容院、いかにも美容師です、っていうのが苦手なんです(笑)。雑貨屋とかカフェってみたい、僕も美容師に見えないってよく言われますね(笑)。接客という言葉もどうも違和感があって。普通に会話をしながら、ただ『髪をつくる』という現場仕事を真剣にさせてもらっているというところでしょうか」

お客さんの希望したイメージを聞きながらも、その人に似合うように仕上げることがプロの仕事。コミュニケーションを丁寧に取りながら、経験とセンスを頼りに髪質を見極め、微妙なニュアンスを表現させていきます。広く宣伝もしないのは、長く通ってくれるお客さんのための時間を大事にしたいという思いから。気がつけば、主婦層を中心に小さな子どもから年配の方まで、お客さんがついてくれるようになりました。4世代の家族で来てくださるお客さんもいらっしゃるそうです。

「最初は自分の商売のことしか考えられなかったけれど、このまちで生活するようになって顔見知りや友人が増えて地域、商店街というのも、いいもんだなって染みてきました。お隣の存在も大きかったです(笑)。うまく表現できないけれど、わーっていうより、つーっていう安定感が僕の仕事のペース。細くとも長く続く店が目標です」

「ILHA」の羽生桂さんは八王子市育ち、美容師、通信系の営業マンやその教育トレーナーなどを経て、世界20数カ国を旅したそうです。その後、当時ブラジル在住だった現奥さまのいづみさんと出会い、アクセサリーブランド「JUZUSUKE」を10年前に旗揚げしました。世界中から天然石やアンティークビーズを買い付け、オリジナルアクセサリーを製作し、オンラインショップでの販売を開始、やがて並行して全国あちこちの百貨店の催事にも出向くようになりました。「お店はどこですか」と聞かれることが多くなり、実店舗を持つことを決意。一見さんの多い都会のまちより、せっかくなら地域密着の路面店を目指そうとこの地を選んだそうです。

豊富なアンティークビーズを扱う実店舗は国内でも数店舗のみ、地方や海外からのお客さんも少なくありません。さらに広くいろんなお客さんに気軽にお店に入ってほしいと、奥さまが手掛ける1点もののハイセンスなアクセサリーに加え、海外で出会った珍しい雑貨や洋服も所狭しと店内に並べ、行けば掘り出し物に出会えるワクワク感ある店を演出しています。

「たくさんの本物にふれてきた方たちが、その集大成にアンティ−クビーズに魅かれることが多いようです。いつも来てくださるお客さんがうちを『宝箱みたい』って言ってくださるんです。感激です。顔を合わせての商売の楽しさを実感しています。『何かあったらすぐお店に来てくださいね』と言えることで信頼をいただき、安心してこちらも商品が紹介できます」

出店1年でその明るい人柄が見込まれて商店街青年部長に大抜擢。日頃から商店街の飲食店に出向きネットワークを広げながら、経堂パトロールと題してSNSで飲食店を紹介するなど商店街全体の盛り上げに取り組んでいます。

「最初は商店街組織がピンと来ませんでした。でも、来たばかりの僕たちにも一生懸命声をかけて、まちのために頑張っている村上さんたちの姿を見たら一緒にやりましょうってなるじゃないですか。柔軟で風通しのいい、この商店街の雰囲気にすごく未来を感じています。ほっこりしているけれどファッショナブル、そんなバランスのいいまちの魅力を高めていきたいですね」

このまちで勝負したい

「ILHA」と「GARAGE」の真ん前に大きな赤提灯がひときわ目立つ創作居酒屋「経堂さんぐ」があります。15時オーンとあってガラス張りの店内には、早くからお酒を楽しむお客さんの姿も見られます。

ご実家は下町、葛飾区の飲食店。小さな頃から自然と料理づくりには親しんでいたという「経堂さんぐ」の飯塚大輔さん(写真右から2番目)。羽生さん、大沼さんとも大の仲良し、商店街を若い力で盛り上げているキーパーソンのひとりです。ご本人がよく口にされる言葉は「顧客満足度の向上」。それもそのはず、実家の飲食店を繁盛店にした経験を生かし、調理人としてのみならず、青山や麻布の飲食店でアドバイザ―や顧問としてマネジメントや従業員教育を行い、さらに有名フードイベントの運営までも手掛けていた飲食業のプロです。仲間と一緒に自分の店を構えようと都心から吉祥寺まで自らさまざまなまちをリサーチし、この地を選び抜きました。

「都会でもない下町でもないまち、僕にとっては未知のエリア、ちょっと面白いかもしれないと思いました。落ち着いた経堂らしからぬ下町のようなホッピーやモツ煮がある、ふらっと立ち寄れる赤提灯の店がいいなって。経堂にはいい魚料理店が多いのでとびきりいい和牛を仕入れて肉料理で勝負しようと考えました」

開放感ある店内、丁寧な接客、テーブルの間隔も広く配置。座席数をあえて抑えているのは、臨機応変に椅子が足せるように、またスタッフ数から計算してお客さんをできるだけお待たせさせたくないとの思いから。そんなお店が求められていたのでしょう、お子さん連れのグループがとても多いのは飯塚さんの嬉しい誤算だったそう。通好みのメニューはそのまま、さらにお子さんの喜ぶメニューも開発、どこまでもお客さん目線を大事にします、

「居酒屋らしい手書きのメニューでスタートしたのですが、家族づれにわかりやすいよう思い切ってカラーで写真入りに変えました。ファミレスっぽいかな(笑)。食べたものがメニューから消えていたらがっかりじゃないですか、だから、メニューを1回も減らしていないので増える一方(笑)。また来たいと思っていただけるお店でありたいです」

異なるものが混じり合って生まれる効果

一昨年、歴史ある2つの商店街組織を合併して経堂シンフォニー商店会を誕生させました。シンフォニーとは異なるものが混じり合って協調してあらたな効果を生み出すこと、その名に未来への思いを託しました。同時にイメージキャラクターをカエルに決定。きれいな水があるところにしか生息しないカエルになぞらえて環境のよさを守っていこうとの思いが込めれています。さらなる組織力強化を目指して、春には法人化します。

商店街の魅力の原点は個性の豊かさ。いろんな人がいて、いろんな店があるから楽しい。そこから醸し出る雰囲気を味わいたくて人は足を運んでしまいます。さらには近隣の学校や町会、まちに関わるひとみながひとつになることでいいまちとなる、そのまちづくりのタクトを振るのが商店街の役割でもあります。

「楽しい仲間も増えてちょっといい商店街になってきたかな、って自負しています。今後も若い店主のいろんな店がどんどん増えてほしい、一緒に頑張りたいです。個店の商売繁盛、商店街の魅力づくりの相乗効果を生んでいきたいと思っています」

経堂シンフォニー商店会

代表者
細谷豊理事長
最寄駅
小田急線「経堂」駅
住所
経堂2-27-20
TEL
03-5477-0777