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あきない世田谷

祖師谷南商店街振興組合

頼られる商店街、店であり続けたいから

小島米店 | 小島孝さん
小田急線祖師ヶ谷大蔵駅から広がる賑やかなウルトラマン商店街のひとつ。生鮮三品を始めとする古くからの専門店も健在、どことなく漂う昭和風情が道行く人に安心感、温かさを届けています。「ほしいモノが一通り揃う」、「行きつけの飲食店がある」、「お気に入りのサービス店がある」、お客さんのそんな商店街像に応えることができているのは、商店主たちが「ここにしかない店」であろうと商売に磨きをかけてきたから。真の地域密着商店街であるため、その努力は続きます。

その道のプロとしてありたい

「子どもの時分、店の若い従業員に遊んでもらえたり、親父の配達に連れていったもらえたり、米屋の息子であることが楽しくってね。だからかな、自覚はないんだけれど小学校の卒業文集に『米屋になる』ってちゃんと書いているんだよ(笑)」

「商売をさせてもらえる地域を商人が一丸となって盛り上げなきゃ」、そんな心意気を体現し続ける商店街リーダーの小島孝さん、昭和27年創業の「小島米店」の2代目となって32年が過ぎました。お父さまの時代に「米穀通帳」での配給制から自主流通制へ、そしてご自身が店を継ぐと規制緩和も到来。米と米屋のあり方の変わりゆく激動の歴史とともに歩んできました。

店内には産地の風景写真、商品説明が添えられた昔ながらの米袋がずらり。小島さん自ら直接産地に出向き、丹精込めて育てた生産者の愛情ごと仕入れています。お客さんは小島さんとのおしゃべりを楽しみながらお米を選び、ほしい量を量ってもらい、お米の味をワクワク想像しながら精米が終わるのを待ちます。売るだけ、買うだけじゃないまちの米屋だからこその贅沢な時間があります。

「米がいつでもどこでも手に入る時代になった一方で、品質や安全性にこだわりを持ち、選び抜かれるお客さんも増えました。うちはそんなお客さんのニーズに応えられる米屋として生き残ろう、そのためにも売るものは自分でちゃんと選びたい、と15年前から産地に足を運んでいます。現地の空気をたっぷり感じながら、生産者さんと交流させてもらい、米作りの過程、土地の地形や気候、風習などもしっかり伺って、お客さんに説明できるように学ばせてもらっています。突き詰めるほど、商材としての米の面白さに気付かされています」

産地の自然環境を守り安全な食を消費者に届ける活動にも永年関わっています。お客さんを連れて産地に出向く稲作イベントを開催したり、産地の名産品を仕入れて販売したり。毎週土曜日には奥さま手作りのお米を使った料理やスイーツを店頭販売しています。米で産地とお客さんをつなげていく、まちの米屋の可能性を追求し続けています。

「お客さんが銘柄ではなく、味の好みを伝えてくれたら腕の見せどころです。納得して買ってもらえて、『こないだのお米美味しかったです』って言っていただけてまた来てもらえるとやっぱり商売っていいもんだなぁってしみじみ感じます。日々の商売を通して『米の価値』や『一膳のお米への感謝』を感じてもらい、日本の米文化を継承するのも米屋の使命だと思っています」

目の前のお客さんの期待に応える

商店街で見かける花屋のイメージとは異なる趣の「花屋はせ川」、その店づくりから店主長谷川達さんの世界観や人柄が伝わってきます。花や植物で何気なくある居心地のいい落ち着いた空間で、いつも長谷川さんとお客さんの優しく穏やかな時間が流れています。

「別に綺麗な花に囲まれたくて花屋になったわけじゃないよ。作業をしていて植物の手触りが手にしっくりくるんだ。相性がいいんだよね」

仕事への愛を独特な表現で語る長谷川さんは、新潟県の自然に囲まれ育ち、小さい頃から生き物、植物が好きで自然科学の分野が得意だったそう。上京して働き先に選んだのは花屋でした。その後、数店の花屋で働きながら花の扱いから仕入れや接客、経営まで現場で学びました。

「花屋に首をつっこんだら、はまっちゃいました(笑)」

数年後、横浜市港北区で店を持つことができました。仕事は順調でしたが、商業地としてのさらなる可能性を求めて10年前にここに移転。前店と同様に駅前ではなく少し離れた立地を選びました。

個人商店の花屋だからできることの一つ目は品質のいい花をできる限り誠実な値段で売ること。いい品に出会えるチャンスを逃すまいと毎朝市場に出向き、よくある一通りの品揃えをするのではなく、自分が気に入り、提供したいと思ったものを仕入れます。二つ目は店のよさやセンスを気に入ってファンになってくれたお客さんを大事にし続けること。売っているのは花であり、人であり、時間だと感じているそうです。

「花屋も店によってコンセプトもテイストも全然違いますから、お客さんそれぞれに『いい花屋』があっていいと思っています。例えば、花束だって僕は自分で持って歩いて許せるものを作りたいです。だから、わざわざウチを選んでくれた人にとって『いい花屋』であり続けるように、変わらないように変わらないと」

ひとりで店を切り盛りする長谷川さんを案じて、食事を差し入れをしてくれる常連さんたちも。忙しい作業中だってお客さんとのおしゃべりを楽しみながら手を動かす毎日がとても心地よいそう。

「人にはこの商売は勧められない、あまりに手間と労力がかかりすぎるから(笑)。でも僕自身はもし別の仕事に就いて遠回りしていても、結局は花屋をしている自信がある。この先、花屋で終われたら最高かな」

祖師谷の名店になりたいから

祖師谷在住の新保正行さんが、洋食づくりに注いだ人生の集大成に念願の自分の店、ハンバーグ&グリル「YUKIMI」を昨年の11月にオープンしました。開業してほどなくコロナ禍となりましたが、正行さんの生み出す確かな味と奥さまの心を尽くした接客で地元に愛される店に。屋号は正行さんのアイデア、ご夫婦の名前を組み合わせたものだそう。

正行さんは大学進学を目指して新潟県より上京、受験の失敗を機に成城学園駅近くにあったレストランで働き始めたのが洋食との出会いでした。その後、数えきれないたくさんの店で経験を重ねるなか、調理人という職業の重労働を実感しつつも、不思議とその道で生きること以外は考えなかったそう。

「例えるなら、洋食は絵の具を積み重ねる油絵のように足し算で味を生み出すもの。和食はさしずめ引き算して味を洗練させる日本画のような。僕は洋食の味を作り上げる過程にはまったのかな」

大手洋食チェーン勤務時代、20年の調理経験の後に商品開発部へ。どの店舗でも同じ味に調理、再現できるための商品づくりの開発研究は勉強になりつつも調理を分業して味を守ることの限界を痛感。自分のつくった味がそのまま提供できる自分の店を持ちたいという気持ちを強くしました。

こだわりの原材料に添加物を一切加えず、すべてのメニューが手作りです。1週間かけて寸胴鍋で煮込む自慢のデミグラスソースを始め、ドレッシングやデザートのアイスクリームやプリンまで。自分で納得いくものだけを提供したい、という正行さんと介護福祉の世界で働いてきた奥さまの身体に良いものだけを提供したい、というお二人の食へのこだわりの結晶です。

「手間と労力をかけた分、お客さんの『美味しかったです』の笑顔がうれしくて頑張れます。今ある味ももっと追求したいし、新しいメニューもどんどん浮かんできますが、若くはないし一歩一歩かな。脇道にあるので『隠れ家みたいですね』とよく言われますが、隠れていません(笑)。たくさんの皆さんに知ってもらえるよう頑張ります」

パーソナルトレーニングジム「アロー」のオーナー阿藤貴史さんは総合格闘技「パンクラス」の現役選手としても活躍する異色の商店街メンバー。ご自身の地元にほど近い祖師谷に開業して8年、アットホームな雰囲気のなか、楽しく前向きに身体づくりのできる空間を提供しています。

「うちの家系はみな自分で会社を起こしているので、僕も『どういう商売をしようか』と小さい頃から漠然と考えていましたね」

中学卒業のころ、たまたまチケットをもらって足を運んだ総合格闘技イベント「プライド」。「強いってかっこいい」、その時の雷に打たれたような衝撃が後の人生の方向性を決めたそう。高校時代にはまずは強い身体づくりをしようとラグビー部に所属、部活引退後、格闘技を始めました。身体のことを学びたいと専門学校に進学して理学療法士の国家資格を取得。フィットネスジムに就職したのち25歳で独立を決意しました。理学療法士の観点で身体を鍛えるプログラムを考えた新しいジムを始めようと病院の一室やテナントの小さなスペースを借りて事業を開始、現在地での開業に至ります。

「たったひとりでスタートしたので、こうやってスタッフや会員さんに囲まれる毎日が楽しくて。目的や思いを持って通ってくれる会員さんそれぞれの人生に関わらせてもらっていることにやりがいを感じています。スタッフもこんなことができるかもしれない、あんなことをしたい、と仕事に夢を持って働いています。僕は『やりたいこと』を口に出すことでチャンスやご縁につながり、不思議と実現ができてきました。アローをみんなの『したい』『なりたい』を叶えるコミュニティの核として考えています」

社会貢献の視点も大事にしています。企業での講演や出張プログラム、高齢者施設へのリハビリの出張や刑務所へ運動指導も。店の外に出ることでの「出会い」と「気づき」が自身やスタッフの経験値をぐっと高めてそうです。

「高齢化社会が進むなか、商店街の人や地域の人が長く働けるよう運動を好きになってもらえるような商店街事業を立ち上げる予定だったんですがコロナ禍で実施できていません。地元の健康を支えることにも尽力していきたいです」

みんなが仲間の商店街でありたい

商店街の風景が時代とともに変化しても、自身が感じてきた下町のような人の温かみを継承させていくことが理事長としての使命、地球の平和を守るウルトラマンさながらに、商店街のよさを守りたい気持ちでいっぱいです。

「小学生の頃、近くにあった円谷プロの倉庫に夜中にこっそり忍び込んで怪獣にさわったり、特撮用の模型で遊んだり。当然、バレて担任の先生から呼び出されて親から大目玉、なんてこともありました。そんなご迷惑をかけていましたが(笑)、円谷プロとご縁がつながり、ウルトラマンが応援してくれるなんてつくづく恵まれた商店街だと思っています。うちの強みは組織力と団結力。新しく来た人だってどんどん仲間になって商店街を盛り上げてほしい。いい店のあるいい商店街はみんなの力を合わせないとできませんから」

祖師谷南商店街振興組合

代表者
小島孝理事長
最寄駅
小田急線「祖師ヶ谷大蔵」駅
住所
砧6-37-5 振興会館3F
TEL
03-3416-6037