布に一針一針縫い込まれた糸が画を紡ぎ出す刺繍、プリント加工では決して表現できない立体感、質感が見た人、触れた人の心を捉えます。すべてが一点モノだから同じデザイン型でも、微妙に表情が変わるのもその魅力です。デザインから刺繍の型作りまでを努さんが、直枝さんが刺繍ミシンを操作し仕上げ加工まで、夫婦二人三脚でひとつひとつの商品を完成させていきます。
長年アメリカンカジュアルブランドを扱うアパレル業界の営業販売職だった努さん、学生時代からイラストや絵を描くことが大好きで、個人的にCDジャケットやポスターのデザインやロゴデザインを引き受けることを続けていたそうです。同じくアパレル出身の直枝さんがアルバイト先で刺繍ミシンの技術を身に付けたことが転機となり、刺繍という表現方法に二人で惹き込まれていきました。
「趣味でキャラ設定までしたキャラクター画をたくさんデザインしてストックしていたのですが、そのイラストが刺繍になると俄然可愛くなってびっくり。僕自身もそれまで刺繍に対してどちらかというと地味な裏方作業のイメージを持っていましたが、刺繍ならではの表現の豊かさにワクワク、これは楽しいぞって」
「シシュウブギウギ」としてオンライン上で営業を開始、口コミで着実に人気が広がり、次第に思わぬ有名先からの引き合いも増えていきました。あちこちで開催してきたポップアップストアでつながったお客さんからの「お店はどこにありますか」の声に応えるべく、4年目を節目にここ梅ヶ丘で実店舗を持つに至りました。
オリジナル商品の販売のほか、持ち込まれたデザインからのフルオーダーやカスタムオーダーにも対応しています。ときには小さなお子さんのイラストを思い出に刺繍で残したいといったオーダーも少なくないそうです。
布地の性質を見極め、数100種類ではきかないという無限の刺繍糸を組み合わせ、好みの色合い、風合いに近づけていく作業。一見してではわからない裏糸の丁寧な処理などの手間暇をしっかりかけて「イイモノ」をお届けしていくことで信頼を重ねていきたいそう。根を詰める作業もしっかり楽しみながら、がお二人流です。
「技術は極めたいと思いますが、僕たちの目指すところはゴリゴリの刺繍職人ではなくて。刺繍を通してお客さんと一緒に幸せに楽しく商売が出来たら、といったスタンスなんです。せっかくの実店舗ですから、とびきり楽しい店にしていきたいですね。少しわかりにくい業種ですが、地域の皆さんにも気軽に遊びに来ていただけたら嬉しいです」